「綱渡りの競技人生」33歳がたどり着いた悲願の晴れ舞台 廃部したコカ・コーラ出身の苦労人ラガー【パリ五輪】

AI要約

吉沢太一はラグビー選手としての苦労や挫折を経て、パリ五輪に代表選手として出場する姿を見せた。

吉沢は廃部になったチームを離れ、新たなチャンスをつかむために努力し、代表メンバーに登録された。

彼の競技人生は綱渡りのようなものであり、多くの支援者や仲間に支えられて目指した五輪出場に至る姿が素晴らしい。

「綱渡りの競技人生」33歳がたどり着いた悲願の晴れ舞台 廃部したコカ・コーラ出身の苦労人ラガー【パリ五輪】

 神様は苦労人ラガーを見捨てはしなかった。

 吉沢太一。33歳。3年前に突如廃部になった福岡市のラグビーチーム「コカ・コーラレッドスパークス」で8年プレーしていた選手だ。パリ五輪のラグビー7人制男子日本代表の12人に入れず、バックアップメンバーとしてパリに向かった。

 スタンドから日の丸を背負って晴れ舞台で躍動する仲間を見つめる。覚悟していたバックアップメンバーの役回りだった。だが、チャンスは巡ってきた。大会期間中にメンバー変更があり、4戦目から代表メンバーに登録された。7月26日のサモアとの9~12位決定戦、同27日のウルグアイとの11位決定戦で悲願だった初の五輪のピッチに立った。所属する国内最高峰リーグ「リーグワン」のレッドハリケーンズ大阪から初のオリンピアンとなった瞬間だった。

 バックアップからつかんだ今回のパリ五輪が象徴的だが、実力とともに運を持ち合わせた「綱渡り」の競技人生だ。埼玉県熊谷市出身。中学2年生からラグビーを始め、県内の正智深谷高から進んだ立正大は関東大学リーグ戦グループ2部だった。FBとWTBでプレーし、独特のステップを生かした攻撃力が強みながら、全国的には無名だった。

 当時の国内最高峰リーグ「トップリーグ」に所属していたコカ・コーラレッドスパークスはその頃、九州にゆかりがある選手を中心に採用する方針からエリアや範囲を広げる形に変更したタイミングだった。「大学卒業を控えた九州出身の有力選手は強豪チームを希望することが多く、強化のために有望選手の発掘が必要だった」。当時の採用担当だった西村将充さんは説明した。

 西村さんがたまたま見に行った試合で、当時4年生で主将だった吉沢のパフォーマンスに目を奪われたという。「もともと採用を予定していた選手ではなく、すぐに向井さんに連絡しました」。向井さんとは、2003年のワールドカップ(W杯)で日本代表監督を務めた後、04年にコカ・コーラの指揮官に就任した向井昭吾さんだ。当時はチームのGMの立場だった。

 「改めて向井さんと(吉沢)太一の試合を見にいったんです。するとプレーを5分も見たら向井さんは『採るぞ!』と。7人制でも通用するとうなり、人脈を生かして7人制日本代表の指導陣にも連絡していました」。吉沢にとってトップレベルでのプレーの道が開けた瞬間だった。

 ちなみに、吉沢とともにこの強化方針変更の恩恵を受ける形で採用された同期が、のちに15人制日本代表として2019年W杯日本大会で日本代表の8強入りの原動力となったCTBラファエレ・ティモシー(コベルコ神戸スティーラーズ)だ。ラファエレは、吉沢と同じ関東大学リーグ戦グループ2部の山梨学院大出身だった。吉沢は大学時代に対戦した経験があり「2部出身でも通用することを証明しようと2人で励まし合ってきた」と語っていた。

 2014年にコカ・コーラに入った吉沢は首脳陣の期待に応え、1年目から公式戦に出場。攻撃に彩りを添えた。15人制とともに2018年のW杯セブンズ日本代表に選ばれるなど7人制でも存在感を示した。

 2021年東京五輪も視野にプレーに磨きをかけていたが、その年の4月にまさかの廃部通告。「引退も考えた」というどん底の精神状態やケガもあり、東京五輪の出場はかなわなかった。競技人生の終焉(しゅうえん)かと思った時、21年にレッドハリケーンズ大阪に誘われる形で入団した。「チャンスをくださった」。昨年に再編問題も起きながら、今では珍しい15人制と7人制の両立に取り組み、どちらでも結果を出した。

 パリ五輪の代表争いが激しくなっていた5月下旬。福岡では五輪前最後となる代表候補合宿が日本ラグビー協会の強化拠点「JAPAN BASE」(福岡市)で行われ、足を運んだ。無名の存在から幸運ともいえる形でのコカ・コーラ入り。15人制での活躍とともに7人制日本代表で世界に挑む両立の日々。「私のようなキャリアを歩む選手はあまりいない。私が結果を出せば多くの無名の選手にとってのロールモデルとして希望を持ってもらえる」。吉沢が激動の競技人生を振り返り、穏やかな表情で振り返る言葉が頭に残った。「多くの方に支えられたオリンピックに出ることが恩返し」。彼らしい形で有言実行を果たした。(大窪正一)

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