頂点を争う現役F1ドライバーに友情は成立するのか? トップと2位で接触したフェルスタッペンとノリスの場合
オーストリアGPでの接触事故をきっかけに、マックス・フェルスタッペンとランド・ノリスの関係に注目が集まった。
レース後の言葉の違いから、謝罪されないのではと予想されたが、2人は友好的な関係を維持し話し合いを行った。
フェルスタッペンとノリスは激しいバトルを繰り広げながらも、珍しい友情を築くトップドライバーである。
ひとつの接触事故が、その後、興味深い展開となった。
事故が起きたのは第11戦オーストリアGP。レース終盤、トップを走るマックス・フェルスタッペン(レッドブル)と2番手のランド・ノリス(マクラーレン)が優勝を争って激しいバトルを展開。その戦いは残り8周でリアタイヤ同士が接触し、ともにパンク。ノリスはガレージに戻ってレースを終え、フェルスタッペンはタイヤ交換してレースに復帰したものの5位に終わり、痛み分けとなった。
レース後、世界中のメディアが集まるミックスゾーンに現れたノリスは、語気を強めて心情を吐露した。
「僕はコースの外側の端にいたのだから、他にはどうしようもなかった。マックスはいつもああいう感じだ。彼は何度も勝っているのに、僕を前に出さないためにできる限りのことをしようとして、捨て身の行動をした。僕としてはタフでありながらフェアで、相手に敬意を払ったぎりぎりのバトルをしたかった。僕は彼をとても尊敬している。でも、今日の彼にはがっかりしている。彼は僕のレースを台無しにし、僕のマシンを破壊した。それでも、彼が『自分は何も悪いことをしていない』と言うのなら、彼に対する僕の尊敬は地に落ちるかもしれない」
同じタイミングでミックスゾーンにやってきたフェルスタッペンは、ノリスと視線を合わせることなく、自らの主張を語った。
「あのバトルで僕は、すごく攻撃的だったわけじゃない。むしろ、接触する前には何度かランドのほうが非常に遅いタイミングで飛び込んできたこともあった。イン側に飛び込んで、僕がそれを避けるのを願うだけという、そんな動きだった。だから、あのときは彼が飛び込んで来ないよう、少しイン側を守った。そしてブレーキング中にリアタイヤ同士が接触し、2台ともパンクしてしまった。この件については、そのうち話すことになる。でも、いまじゃないだろう。僕らはレーシングドライバーだからね」
これまでも頂点を目指して、数々の接触事故が起きた。1989年日本GPでのアラン・プロストとアイルトン・セナ、94年オーストラリアGPでのミハエル・シューマッハとデーモン・ヒル、97年ヨーロッパGPのシューマッハとジャック・ビルヌーブ。最近では2021年のイギリスGPでのフェルスタッペンとルイス・ハミルトン。どの事故にも共通していたのは、互いに謝罪することなく禍根が残ったことだ。
今回もレース直後のミックスゾーンで謝罪の言葉がなかったことから、それらと同じ道を辿ることになるだろうとだれもが想像した。
ところが、そうならなかった。フェルスタッペンにとってノリスは、かけがえのない友人のひとりだったからだ。2人はサーキットだけでなくプライベートでも良好な関係を築いてきた。休みの日にはオンラインでレースをするほどの仲で、サーキットから同じ飛行機で帰路につくことは珍しくない。さすがに今回は別々の便でオーストリアを後にした2人だが、レース翌日に早速、話し合いの場を持った。
フェルスタッペンは次戦イギリスGP開幕前の記者会見で、自らの気持ちをこう語った。
「レース後、僕が唯一、気にかけていたのは、ランドとの関係を維持することだった。彼は素晴らしい友人だからね」
ノリスもオーストリアでの発言が少し過激だったと認めた。
「レース後の自分の発言は、アドレナリンが出て感情が高まっていたから。苛立って思っていないことを言ってしまうのと同じ。だから、彼が謝罪する必要はない。僕らはあの日のレースについて話し合い、これからも激しくレースすることで意見が一致した」
トップドライバー間にも友人関係は成立する。セナとゲルハルト・ベルガー、セバスチャン・ベッテルとキミ・ライコネンなどがそうだ。ただし、彼らは同じ時期にコース上で激しい争いをほとんどしていない(タイトルを争うほどのライバル関係にあったミカ・ハッキネンとシューマッハは、プライベートでは親しくなくとも尊敬し合う仲だった)。
フェルスタッペンとノリスはコース上で火花を散らすほどの戦いを演じつつも、友情を大切にするという極めて珍しい関係にある。そもそもその友情は、私たちが想像するものとは形が異なるのかもしれない。