“久保建英のいとこ”から“陸上界のニューヒロイン”に…16歳で800m日本チャンピオンの久保凛 日本選手権で見せた「ホントのすごさ」とは?

AI要約

16歳の久保凛が初の大舞台で冷静な走りを見せ、女子800mで高校生チャンピオンに輝く。

久保は先頭を譲らない積極的な走りで知られ、日本選手権決勝ではクレバーな走りを見せる。

プレッシャーの中で予想外の展開にも対応できる適応力を持つ久保の凄さが際立つ。

“久保建英のいとこ”から“陸上界のニューヒロイン”に…16歳で800m日本チャンピオンの久保凛 日本選手権で見せた「ホントのすごさ」とは?

 弱冠16歳。それでも初の大舞台で、久保凛は最後まで冷静だった。

 新潟で行われていた108回目の陸上日本選手権。女子800m決勝では、優勝候補だった東大阪敬愛高2年の久保凛が、550m付近で一気に仕掛けた田中希実(New Balance)に反応。そのまま残り150mでスパートすると、そこからは後続を突き放し、同種目で8年ぶりの高校生チャンピオンに輝いた。

「この大きな舞台を楽しもうと監督とも話をしていました。楽しんだ上で勝ち切ることができたので、自分にとっても自信になります」

 初戴冠の女王は、初々しい表情とは裏腹に、しっかりと自信に満ちた口調でレースの感想を語った。

 久保は和歌山・潮岬中3年時の2022年に800mで全中王者に。昨年4月に東大阪大敬愛高に進むと、8月のインターハイでは1年生ながら同種目で優勝を飾った。今年4月に行われた金栗記念では田中とのデッドヒートに競り勝ち勝利。5月の静岡国際で2分3秒57のU18日本新、高校歴代3位の記録をマークし、木南記念も制するなど、トップ選手を抑えてGPシリーズ3連勝中だった。

 今季の久保の走りでタイム以上に特筆すべきなのは、スタートから先頭を譲らない積極性だった。

 800mをはじめとした中距離種目は基本的に、誰かをペースメーカーにして後ろにつき、どこかのタイミングでスパートをかける形が最も効率的な走りだ。だからこそ、位置取りに関しても道中で駆け引きが要求される。圧倒的な実力差でも無い限りは、普通は序盤から先頭で走り切ることはほとんどない。なにより皆がそれを分かっているからこそ、前半から飛び出すにはかなりの覚悟が要求されるのだ。

 それでも久保は春のGPシリーズからこの日本選手権の予選まで、初めて挑んだシニア選手たちを相手に「先行逃げ切り」スタイルを選んでいた。そして、負けなかった。

 ただ、裏を返せばそれは若いランナーらしい勢いを活かした「怖いものなし」の走りだったとも言える。1つのパターンのレースしか経験していないというのは、それ以外のケースへの対応力が未知数であるとも言えた。

 ところが日本選手権の決勝では、一転してクレバーな走りを見せた。

 号砲が鳴った後、オープンレーンになる100m付近で先頭を窺うのはいつもの通り。だが、決勝ではシニア選手のプライドを見せた塩見綾乃(岩谷産業)や、高校の先輩にあたる川田朱夏(ニコニコのり)といった選手が先頭を譲らなかった。

 もし、当初のレースプランにこだわって、あえて先頭に出ようとしていたら。ここで無駄に力を使うことになっただろう。だが、久保は焦らなかった。

「いつも通り最初から前に行こうと思っていたんですけど、先に塩見さんが先頭に行かれたので。じゃあ、落ちついていこうと。そこでレースパターンを変えて、ラストの250mくらいで仕掛けようと考えました。終盤で田中選手が前に行きはった時に、『ここで抜かれてはいけない』と思っていたので、抜かれずそれに対応してから、自分のスパートをかけることができました」

 初の日本選手権決勝の舞台。しかも高校生の優勝候補として、周囲からの注目度も高かった。もちろんプレッシャーもあっただろう。その状況下で、予想外の展開にも対応できる適応力は、走力以上の凄みを感じた。