「今の『形』としてある」鹿島アントラーズ、大卒・濃野公人はなぜゴールを量産できるのか。「大きな要因として…」【コラム】

AI要約

鹿島アントラーズが横浜F・マリノスを3-2で逆転勝利し、大卒ルーキーの濃野公人が逆転ゴールを決める活躍を見せた。

濃野公人のゴールは、チームの攻撃パターンとビルドアップの良さが示唆されるものであり、そのプレースタイルが注目を集めている。

鹿島アントラーズは、濃野公人を含む若手選手の台頭やチーム戦術の進化を通じて、勝ち点を積み重ねている。

「今の『形』としてある」鹿島アントラーズ、大卒・濃野公人はなぜゴールを量産できるのか。「大きな要因として…」【コラム】

 明治安田J1リーグ第17節、鹿島アントラーズ対横浜F・マリノスが1日に国立競技場で行われ、3-2でホームチームが勝利を収めている。この試合で勝利を引き寄せる逆転ゴールを奪ったのが大卒ルーキーの濃野公人だった。同選手はこれで17戦5発。DFながら、なぜここまでゴールを量産できるのだろうか。(取材・文:元川悦子)

●「本当にポポさんもよく言ってますけど…」

 5月のJ1・6試合を無敗で乗り切り、16試合終了時点で勝ち点32と、首位を走るFC町田ゼルビアに3ポイント差まで迫ってきた鹿島アントラーズ。「本当にポポさん(ランコ・ポポヴィッチ監督)もよく言ってますけど、本当に俺らのやれることは目の前のトレーニング、目の前の1試合でしかない」と鈴木優磨も強調する通り、彼らは1つひとつの試合を大事にして、最終的には頂点を狙っていく構えだ。

 そんな鹿島にとって、6月1日に対戦した横浜F・マリノスは絶対に倒さなければいけない相手。ご存じの通り、横浜FMは先月にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝を戦ったばかり。アル・アインに敵地で大敗して準優勝に終わったものの、実力に疑いの余地はない。その彼らに勝てれば、チームとしてもう一段階飛躍できるはず。東京・国立競技場に5万2000人の大観衆が集結する中で、それを実証したかった。

 立ち上がりの鹿島は強度の高い入りができているように感じられた。だが、開始早々の10分にまさかの失点を喫してしまう。

 横浜FMの左FW井上健太がボール奪い、渡辺皓太から天野純につながったところで、関川郁万がカット。安全にクリアしようとしたはずが、渡辺に引っかけられ、左にいた井上に展開された。次の瞬間、井上が思い切りのいいシュートを放つ。これをGK早川友基が弾いたものの、前節・柏レイソル戦でハットトリックを達成したアンデルソン・ロペスに詰められてしまう。相手エースFWに幸先のいい先制点を決められ、鹿島はいきなりの苦境に立たされたのだ。

 そこから横浜FMの攻撃が一気に加速。鹿島の守備組織が崩れそうなピンチもあった。

●大卒・濃野公人が17試合で5得点

「相手の方がアグレッシブにより貪欲に戦っていて、それで相手に合わせてしまったのが前半に足りない部分だった」とポポヴィッチ監督も反省点を口にする。

 それでも何とか踏み止まり、32分にはリスタートから関川のヘッド弾で追いついたかと思われたが、VAR(ビデオ・アスシタント・レフェリー)判定で取り消し。3分後の師岡柊生の決定機も相手守護神・飯倉大樹のスーパーセーブに阻止された。結局、前半45分間は同点に追いつけないまま、試合を折り返すことになった。

 ボール支配率もシュート数も横浜FMに上回られた鹿島。この状況を打開すべく、指揮官は後半頭からチャヴリッチを投入。これまでのように彼をサイドに入れるのではなく、1トップに配置。鈴木優磨を一列下げてトップ下にして、右に名古新太郎、左に仲間隼斗といった並びに変えたのだ。

 この布陣変更と攻撃意識向上がプラスに働き、後半は彼らが猛然と押し込んだ。そして12分に待望の同点弾が生まれる。

 中盤の佐野海舟の右サイドへの展開が始まりだった。インサイドに絞っていた濃野公人がボールタッチし、深い位置まで侵入した名古が精度の高いクロスを蹴り込んだ。それにゴール前でチャヴリッチが頭で反応。ファーにこぼれたボールをエース・鈴木優磨が左足で蹴り込んだのだ。

「上(のコース)はもうなかったんで、いかに下を狙うかだった。正直、かなり運もあったんですけど、何とか相手の股を抜けていいところに行きました」と背番号40は今季8点目を冷静に分析していた。

 直後に横浜FMの左CKからの得点場面が訪れたが、VARでノーゴールになるという追い風もあって、鹿島の攻めはさらに迫力を増した。そして試合を決定づけたのが、74分の2点目。左サイドの低い位置で鈴木優磨がボールを受け、フリーの知念慶にパス。それを背番号13がドリブルで運んでいる間に、鹿島の右FW名古が対面の永戸勝也を引き付けてスペースを空けた。次の瞬間、後ろの濃野が凄まじい勢いで走り込んできて、ペナルティエリア内で右足を一閃。大卒ルーキーの右サイドバック(SB)が17試合目で5ゴール目をマークするという離れ業をやってのけたのだ。

「鹿島は右SBの濃野選手が数多くの得点を取っている。そこを警戒しないといけない」と横浜FMの植中朝日も語っていたが、まんまと相手のスキを突く形になった。

 濃野本人も目を輝かせながらこう語った。

●「キミ(濃野)が点を取れている大きな要因として…」

「チームとしての形が見えたワンシーンなのかなと。左でタメを作って、右にボールが流れてきてっていうのは、今の『鹿島の形』としてあると思います。自分は『前のスペースにどんどん出て行け』と言われていて、名古君がダイアゴナルに走って相手DFを引き付けてくれて、僕の前にスペースがめっちゃ空いたんで、信じて入っていって思いっきり振ったら入りましたね」

 実を言うと、左の仲間からのボールに濃野が反応した開始7分の決定機など、この得点シーン以外にも「左で作って右で仕留める」という形は試合を通して何度か見られた。それが今の重要な攻撃パターンになりつつあるのは間違いない。そこは鈴木優磨も指摘する点である。

「キミ(濃野)が点を取れている大きな要因として、今年の(安西)幸輝のパフォーマンスがすごくいいこと。ビルドアップに関しては正直、幸輝に依存してるところがあると思います。左で幸輝がタメを作れるから、後ろの選手も安心して預けられるし、相手も飛び込んで来られない。そのビルドアップがうまくいってるおかげで左から崩せて、公人が取れていると思いますね」と背番号40は安西の貢献度の高さを改めて強調した。彼と仲間、ボランチの知念らの連動性が高まっていることも、5月以降の快進撃の一因になっていると言えるだろう。

 濃野の一撃の後、鹿島は関川がリスタートから3点目をゲット。後半アディショナルタイムに植中の一発を浴びたものの、3-2で逆転勝利し、勝ち点3を上積みすることに成功した。町田がアルビレックス新潟に負けたこともあり、勝ち点35で並ぶところまで辿り着き、6月の代表ウィークの中断を迎えることになった。

 殊勲の濃野も「U-23日本代表入りするのではないか」と評判が高まり、本人も少し期待していたようだが、結局は選外に。AFC・U-23アジアカップ(カタール)を戦った関根大輝(柏)や内野貴史(デュッセルドルフ)らをごぼう抜きするには至っていないという現実を突きつけられた様子だ。

「選外になったのが、守備の不安定さという弱みが大きいのかなと。日本を代表して世界と戦うという意味ではまだまだ力不足なのかなと思います。1人で守れて1人で攻めれる選手じゃないとやっぱり日の丸を背負えない。自分を磨いていくしかないですね」

 神妙な面持ちで背番号32はこう語り、試合の空く2週間でさらなる自己研鑽を図るつもりだ。鹿島としても日程が空くことをプラスに捉え、より攻守両面のブラッシュアップを図ることが重要になってくる。「今、やってることの精度や質を上げて、強度も積み上げていくしかない」と鈴木優磨も語気を強めたが、それを地道にコツコツ続けることが、常勝軍団復活につながるはずだ。

(取材・文:元川悦子)