いったい、どのようにこの宇宙は誕生したのか…最新研究から見えてきた「驚きの仮説」

AI要約

宇宙の起源について、最初のエネルギーの塊から生命が誕生するまでの歴史を探る。

日本人やホモ・サピエンスの起源、生命の起源など、起源に関する研究の進展について紹介。

古代ギリシャから始まる物質の起源の思考の歴史、そして素粒子標準理論の発展について述べられている。

いったい、どのようにこの宇宙は誕生したのか…最新研究から見えてきた「驚きの仮説」

138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか?

本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。

*本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

物事の起源に強い興味をもつのは、おそらく筆者だけではないと思います。なんと言っても、物事の起源にたどり着くと、今その物事がそうである理由が納得できたり、逆に思いがけない起源にたどり着いて、その意外性にさらに好奇心をそそられたりするものです。

そもそも私たちは、どこからやって来たのでしょうか? 日本人の起源の研究には長い歴史がありますが、最近は発掘された人骨のDNA解析を通して飛躍的な進歩を遂げています。大陸から南北のルートで海を渡ってこの島国にたどり着き、四季を通じて美しさと険しさをたたえる自然の中で豊かな文化を育んできた日本人の起源が、最新科学研究による実証とともに明らかになってきています。

これを人類という枠に拡大してホモ・サピエンスの起源とその進化についても、DNAレベルでの検証を伴って大きく進展していることは、2022年のノーベル生理学・医学賞がネアンデルタール人など古代人のDNA解析技術の確立に対して贈られたことから、ご存じの方も多いと思います。今では、約30万年をさかのぼるホモ・サピエンスの歴史を語ることができるようになっています。

さらに生命の起源を巡る研究も盛んで、約40億年といわれる地球上の生命の起源が、そもそも地球の外に存在する可能性が検証されようとしていることは、「はやぶさ2」探査機がもち帰った小惑星の破片の分析が話題になって、ご存じの方も多いでしょう。

そしてさらに歴史をさかのぼって、私たちを含むすべての物質の起源、またそれらをすべて包括する宇宙の起源は、おそらく人類が自分と自分以外の関係を考え始めたときから、ずっと大きな関心事であったと思われます。

その記録は、古代ギリシャにさかのぼります。紀元前600年ごろには、ギリシャ七賢人の一人とされる哲学者タレスが、万物の根源、アルケーの存在を考え始めました。その後、すべての物質を、火、水、土、空気という4つの元素が愛という引力と憎しみという斥力で離合集散した結果として考える、哲学者エンペドクレス(紀元前450年ごろ)が現れました。中国でもすべての物質は5つの要素からなるという五行説が生まれるなど、一見複雑に見える世界が少ない要素から成り立っているのではないかという思索が、世界のあちこちに現れるようになりました。

この純粋な思考のみに基づく推論、時に詩的とも思える自然観は、その後、約2000年の時間をかけて、実験という「再現できる事実」に裏付けられ、数学という「普遍的な論理」に支えられた、「素粒子の標準理論」として結実することになりました。

この理論では、この宇宙に存在するすべての物質が6種類のクォークと6種類のレプトンから成り立っていて、それらの間に働く力はゲージ原理という数学的構造に基づいている、と理解されています。この理論に結び付く電子や原子核の発見が19世紀末から20世紀初頭にあり、同じ20世紀の後半には「標準理論」という包括的な理論に到達したことは、知識や技術の進歩が指数関数的に加速して進むことを示していると言えるのではないでしょうか。

素粒子標準理論に代表される基礎科学の発展の歴史と現在の最先端の詳細は『宇宙と物質の起源』をご覧いただければと思いますが、近代の科学の進展が明らかにしたのは、この宇宙が138億年前に点にも満たない極小のエネルギーの塊から生まれたこと、その塊から私たちが生まれるまでには数々の偶然が重なっているらしいことです。