連星系「VFTS 243」のブラックホールが超新星爆発なしで誕生した仮説を裏付け

AI要約

重い恒星が完全崩壊する可能性について、具体的な事例を挙げながら説明します。

VFTS 243という連星系が完全崩壊を起こした可能性について、観測とモデル計算による検証結果を紹介します。

完全崩壊を経た恒星から生まれたブラックホールの可能性について解説し、今後の研究の重要性を示唆します。

連星系「VFTS 243」のブラックホールが超新星爆発なしで誕生した仮説を裏付け

太陽よりもずっと重い恒星は、一般的にはその最期に「超新星爆発(II型超新星)」を起こすと考えられています。しかし実際には、全く超新星爆発を起こさずにブラックホールへと崩壊する「完全崩壊(Complete collapse)」を起こす恒星もあると考えられています。

マックス・プランク天体物理学研究所のAlejandro Vigna-Gómez氏などの研究チームは、片方の恒星が完全崩壊に至った可能性が高いと言われている連星系「VFTS 243」について、観測記録とモデル計算を照らし合わせることで、完全崩壊したという仮説が妥当かどうかを検証しました。その結果、VFTS 243のブラックホールは超新星爆発の影響を受けていない、つまり完全崩壊を経験していると考えて妥当であるとする結果が得られました。

今回の研究結果は、実態がよくわかっていない超新星爆発の内部を探る上でVFTS 243がモデルケースとして役立つことを示しています。

質量が太陽の8倍以上ある重い恒星は、「超新星爆発」と呼ばれる非常に劇的なエネルギー放出現象を起こして最期を迎えると考えられています。この時、爆発の中心部には「中性子星」または「ブラックホール」が残されますが、時々100~1000km/sという猛烈な速度で移動するものが生じます。太陽の数倍の質量を持つ天体がこれほどの高速で動く理由は、非対称的で偏った爆発に蹴りだされるようにして運動エネルギーを得るからだと考えられています。この現象を「ネイタルキック(Natal kick)」と呼びます。

一方で、重い恒星が必ず超新星爆発を起こすとは限らず、爆発を発生させずに直接崩壊する恒星もあるのではないかという仮説があります。「完全崩壊」(※)と呼ばれるこのシナリオでは、恒星はほとんど爆発を起こさずに潰れてブラックホールになると考えられます。この場合、ネイタルキックもほとんど発生しないと考えられます。

※…このような現象について「直接崩壊(Direct collapse)」や「失敗した超新星(Failed supernova)」の語を当てる場合もあります。ただし、これらの用語は違う現象を意味する場合もあるため、文脈に注意が必要です。

実際に恒星が完全崩壊を起こすかどうかは、天文学における大きな論争の1つとなっています。完全崩壊で誕生したブラックホールの候補はいくつかありますが、特に注目されているのは2022年に発見された「VFTS 243」と呼ばれる連星系です。地球から約16万光年離れた「大マゼラン雲」の中にあるこの連星系は、片方が太陽の約25.0倍の質量を持つ恒星、もう片方が太陽の約10.1倍の質量を持つブラックホールから成ると考えられています。

観測結果から、ブラックホールの公転軌道はほぼ円形(軌道離心率0.017±0.012)であり、公転軌道の半径もかなり小さいと測定されたことで、VFTS 243のブラックホールは完全崩壊によって誕生したという説が提唱されました。連星系で超新星爆発が起きた場合、ネイタルキックによってブラックホールが蹴りだされるだけでなく、爆発の衝撃によって恒星も動かされます。つまり、普通の超新星爆発で誕生したブラックホールだった場合、観測されたようなほぼ円形で小さな半径の公転軌道を持つ確率はかなり低くなるはずです。