輸血は今―  消防署員も必死 供血「明日はわが身」

AI要約

奄美大島での救命活動における供血ボランティアの重要性と困難を描いた記事。

奄美大島地区緊急時供血者登録制度の課題と、島民の支え合いの姿を紹介。

献血文化の普及と登録者裾野の拡大が、連携強化の鍵となる。

輸血は今―  消防署員も必死 供血「明日はわが身」

 2022年6月5日、鹿児島県・徳之島で闘牛の散歩中に発生した外傷患者への救命活動。搬送先の県立大島病院に大勢の供血ボランティアが集まったのは、島民の支え合いと大島地区消防組合消防本部の陰の努力によるものだった。 

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 6日午前0時3分。奄美市名瀬の消防本部に県立大島病院から供血要請の一報が入った。

 「供血要請依頼書/緊急に輸血用血液が必要となりましたので、下記により供血登録者への要請を依頼します」

 電話とともに一枚のファクスが届いた。依頼血液型はA型。輸血予定量は2000ミリリットル。記載された輸血予定量から採血人数を割り出す。

 2000ミリリットルでは約5人分の協力が必要だ。居合わせた署員で「奄美大島地区緊急時供血者名簿」を手にした。

 奄美大島では、日本赤十字社の血液製剤が不足し生血(なまけつ)輸血を行う判断がされると、迅速に血液を確保できるよう、あらかじめ供血に協力してくれるボランティアを登録しておく「奄美大島地区緊急時供血者登録制度」がある。離島苦から生まれた、21年間続く奄美大島住民の英知の結晶だ。

 居住地域と血液型ごとに分類されている名簿をもとに、一分でも速く協力者を確保できるよう、複数の署員で電話をかける。この夜目標だった5人からは承諾を得ることができた。

 ほっとしたのもつかの間、午前2時54分、再びファクスが鳴った。追加要請だ。「A型血液」「8000ミリリットル」。今度は20人相当。

 多くの署員たちでリストを手分けして一斉に電話をかける。一般市民からの119番要請の電話口も防ぎかねない数だった。多くの人が寝ている時間帯でなかなか電話をとってもらえない。署員の家族にも供血の協力を依頼。電話をかけた人数は優に50人を超えた。結果26人から承諾を得ることができた。

 翌7日午後6時12分、3回目の要請が来た。「A型血」「8000ミリリットル」。今回は夕食前後の電話がつながりやすい時間帯だったため、20分ほどで20人分の承諾を得ることができた。

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 島民の「結の精神」の証しともいえる緊急時供血者登録制度だが、課題も多い。登録できるのは年に2回、日赤の献血バスが来島する期間のみ。加えて日赤の基準をクリアして献血できた人のみが対象だ。

 登録したとしても、3年が過ぎると一度クリアした日赤の基準を、現状でも満たしているか分からないため、更新しないと抹消される。また転居する時に連絡を忘れる人も多い。一刻を争う要請時に「もう奄美にいません」と言われるケースも多々あるという。

 深夜に電話をかける消防署員、突然電話を受け取る住民、双方の心理的負荷の解消も必要だ。供血要請に応じられるかどうか返答しやすいよう、専用アプリで一斉配信するなど、時代に応じた工夫も求められる。

 何より、登録者の裾野を広げるために、島民の日本赤十字社への献血協力が欠かせない。

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 奄美の人たちにはお礼の言葉も見当たらないほど感謝の気持ちでいっぱいだ、と取材に応じた徳之島の患者の遺族。泊智仁消防司令長に伝えると「とんでもない」と即答した。

 「明日はわが身。動くのは当たり前のことです」

〈メモ〉

【奄美大島地区緊急時供血者登録制度】2024年3月31日現在合計662人(奄美市、龍郷町、瀬戸内町、宇検村、大和村在住者)が登録している。