滋賀県の地下歩道冠水、女性の溺死事故から2年「母の尊厳に関わる」長男の訴え

AI要約

安土町の地下歩道で溺死事故から2年が経過。原因は未解明で、大雨時の危険性を訴える木下応祥さん。

地下歩道は排水能力を超える雨水で冠水し、岩田鈴美さんが死亡。事故調査では詳細が不明な部分も。

岩田さんは健康で優しい人物であり、家族に愛される人生を送っていた。事故当日は夫の命日で早く帰りたかった可能性も。

滋賀県の地下歩道冠水、女性の溺死事故から2年「母の尊厳に関わる」長男の訴え

 滋賀県近江八幡市安土町の地下歩道が豪雨で冠水し、近くの岩田鈴美さん(72)が溺死した事故から19日で2年が経過した。溺れた原因が解明されない中、長男の木下応祥(まさよし)さん(50)=滋賀県甲良町=は「健康でごく普通だった母でも事故に巻き込まれた。大雨時の地下歩道は危ないということをいま一度知ってほしい」と訴えている。

 現場はJR安土駅北東の線路脇を通り、線路下をくぐる地下歩道(アンダーパス)。当日昼は大雨・洪水警報が発令され、1時間に60ミリ以上の雨が降った。岩田さんは友人の車で太極拳教室に行き、帰りの午前11時半から同40分ごろ、徒歩で歩道に入ろうとしたとみられ、約3時間半後に遺体で見つかった。

 事故後、市の事故検証委員会の調査で、地下歩道の排水能力を超える大量の雨水が流れ込んであふれたことが明らかになった。午前11時半から同40分ごろ、歩道の最も深い辺りは高さ1・2~1・8メートルまで浸水したとされる。報告書は「おそらく(入り口側の)市道部分で待機せざるを得なかったであろう(中略)その際に、転倒するなどして、移動できず水位上昇とともに溺死されたのではないか」と推測するが、身長150センチほどの岩田さんが「実際にどのような状況で亡くなられたか、より詳細に理解するためには証拠が不足している」とするばかりだ。

 「冠水している状況で、わざわざアンダーパスに進入するのは合理的でない」。報告書はそう記述する。木下さんは「こう書かれては、母を知らない人に『勝手におかしいことをした』と思われる。母の尊厳に関わる」と思いを吐露する。

 「認知症では」。ネット上にはそんな趣旨の心ない書き込みもあるという。「実際は全く逆。身体も丈夫で病気もなく健康だった」と木下さんは語る。

 岩田さんは名古屋市出身。若い頃は幼稚園の教諭だった。結婚後、生協で荷分けのパート仕事などをして2人の息子を育てた。「いつも優しく争いごとが苦手で本当に温厚な人。孫を連れて行くと言うと二つ返事で喜んでくれ、孫が好きな唐揚げを用意してくれた」。ジョギングを連日こなし、亡くなる前日まで毎晩日記を書いた。ごみ捨てにも家の鍵を閉めるきちょうめんさもあった。

 事故当日は、ちょうど10年前のこの日に亡くなった夫・政司さんの命日だった。岩田さんは毎朝仏壇にごはんと線香を供え、自ら学んだお経も唱えていた。「父を大切にしてたんだな」と木下さん。政司さんの三、七回忌は親族が集ったが「10年の命日は別に私だけで十分」。日記にはそんな記述があるという。当日は、観音開きの仏壇が開いたままで両脇に普段は置いていない花が飾られていた。

 太極拳教室から帰る際、友人が「雨がやむまで待とう」と誘ったが、岩田さんは帰りを急いだという。木下さんは「命日だから早く帰りたかったのでは」と思いをはせる。

 木下さんは、管理する市や県に損害賠償を求める訴訟を大津地裁で起こし係争中だ。「健康な人でもあの状況では事故に巻き込まれてしまうと裁判所には認めてほしい。そうでないと母が浮かばれない」と願っている。