あす18日に再び「特捜検事」の尋問へ 真実を話すよう迫った検事ら 自ら立った法廷では「記憶にない」「差し控える」 初めて公開「取り調べ映像」の波紋 プレサンス山岸さん国賠訴訟

AI要約

大阪地裁703号法廷で公開された検察特捜部の取り調べ映像には、横領事件の巨額横領事件に関する厳しい質問と圧力が映し出されていた。

特捜部は、主張と実際の事件の結末が異なり、被告に無罪判決が下される出来事で、事件の背景や主張の矛盾が露呈された。

取調べにおける威圧的な態度や誘導的な取り組みが公開され、事件の真相をめぐる論争が浮かび上がった。

あす18日に再び「特捜検事」の尋問へ 真実を話すよう迫った検事ら 自ら立った法廷では「記憶にない」「差し控える」 初めて公開「取り調べ映像」の波紋 プレサンス山岸さん国賠訴訟

 6月11日、大阪地裁703号法廷。この映像を法廷、そして国民が目にした時にどのような感想を持つのだろう。「これはひどい」と思うのか、それとも「この程度か」と思うのか。取材担当の私は、今までにはない緊張感を感じた。

 「この映像」とは、大阪地検特捜部が巨額横領事件の捜査の過程で行った取調べを記録したものだ。検察特捜部が行った取調べ映像が公開されるのは日本の司法の歴史上、初めて。この映像公開には多くの紆余曲折があったことは後述するが、日本中のメディアの注目を集めていた瞬間だった。

 そしてその後には、実際に取調べを行った検察官の尋問も予定される異例の裁判。裁判長が法廷に入室し開廷。弁護側に設置された大型モニターに映像が流れた。

(令和元年12月9日)

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「あなたの場合、いきなり学校法人の貸付だっていう前提で話しているように聞こえるのね。それって普通の人がとる行為としておかしいでしょう。端からあなたは社長をだましにかかっていったってことになるんだけど、そんなことする?普通」

【K氏】「しないですよね、普通は」

(K氏はプレサンスコーポレーション社長だった山岸忍さんの当時の部下)

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「なんで、そんなことしたの。それ何か理由があります?それはもう自分の手柄が欲しいあまりですか。そうだとしたらあなたは、プレサンスの評判を貶めた大罪人ですよ」

 「大罪人」という言葉を使いK氏に詰め寄る田渕検事。この後、K氏が話した供述が大きな決め手となり、大手不動産会社プレサンスコーポレーション社長(当時)の山岸忍さんは逮捕された。しかし、刑事裁判では検察の主張は否定され、山岸さんには無罪判決が下された。

 この事件は5年前、大阪市内の学校法人の土地取引をめぐり起きた。学校経営に関心を示していたO氏(有罪判決で確定)が18億円もの大金を借り入れ、その金を使って理事長に就任した。この18億円を貸したのが山岸さんだった。

 O氏はその後、学校の土地を売却して、借り入れていた18億円の返済にあてた。O氏は、理事長就任のために必要とした個人の借金を、学校の財産である土地を売った金で返済したことになる。これは業務上横領罪にあたる。

 特捜部は、山岸さんがこの横領計画を知っていながら、学校の土地欲しさに金を貸したと考え、捜査を進めた。確かにこの土地は、大型マンション建設にとっては絶好の場所。マンション事業を手広く展開していた山岸さんが、手に入れたいと願っても不思議ではない。特捜部は山岸さんの動機は十分と考えていた。

 一方で18億円の金を出した山岸さん。「金をだれに貸したのか」という認識の点で、特捜部の見立てとは大きな違いがあった。

 山岸さんは部下K氏などを通して、O氏個人にではなく、学校法人に金を貸したと思っていた。学校に金を貸し、学校が土地を売って返済したという認識であれば、通常の土地取引で、罪にはならない。

 特捜部は捜査を進めていくものの、山岸さんがO氏個人に金を貸したのだと認識していたことを示す、客観的な証拠が出てこなかった。そんな中で特捜部がこだわったのが、事件の関係者からの証言だ。

 重点的に取調べを受けたのが、映像にも映し出された山岸さんの部下K氏(逮捕、起訴の後、裁判で有罪判決)だった。この土地取引の実務を担っていた K氏自身は、横領計画を知りながら取引を進めていた。しかし「山岸さんには伝えていなかった」と、特捜部の取調べに対して答えていた。

 特捜部としては、どうしてもこのK氏を“割る”必要があった。そのような状況の中で、今回公開された取調べが行われることになる。

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「これ例えば会社から今回の風評被害とか受けて、会社が非常な営業損害を受けたとか、株価が下がったとかいうことを受けたとしたら、あなたはその損害を賠償できます?10億、20億じゃすまないですよね。それを背負う覚悟で今、話をしていますか」

【K氏】「まぁ、背負えないですよね。それは」

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「背負えっこないよね。そんな話して大丈夫?だから、あなたの顔が穏やかになりきっていないって見えるんですよ。見えるんですよ。見てわかるんですよ」「だんだん悪い顔になってきているよ」

【K氏】「いや悪い顔じゃないです。本当に悪い顔で説明するつもりないです」

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「いやいやだって、おかしいじゃない。普通に考えて」

【K氏】「じゃあもしかしたら私の勘違いだとしたら、すみません。ぼくはそういう風に自分では説明したと思い込んでいるのか」

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「どういうふうに」

【K氏】「いや、その移転、移設するために学校に出してくれっていう話を自分がしたと思っているんで」

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「それはね、後からそういう形で説明したということにしようとしていただけなんじゃないの、みなさんが。山岸さんに対する説明はそういう体でやっていたんだってことにしていただけじゃないの」

【K氏】「そこは本当に」

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「だって、スタートがやっぱりおかしいじゃない。どう考えてもおかしいですよ」

 山岸さんに横領計画について報告していないとしたらプレサンスが被った損害を一人で背負えるのか…そう迫り、特捜部の見立てに合わない供述は徹底的に否定にかかる。無罪判決の中で「必要以上に強く責任を感じさせ、その責任を逃れようと真実とは異なる内容の供述に及ぶ強い動機を生じさせかねない」と厳しく非難された取調べだ。

 誘導的と感じる部分がある一方で、この部分だけを見ればそこまで大きな問題があるようにも感じない人もいるかもしれない。だが、取調べには“流れ”のようなものがある。映像が公開された取り調べの前日から、一連のものとして見ると大きく印象が変わる。

 12月8日、田渕検事は家宅捜索でK氏のデスクから押収したメモを、「山岸さんは関与していない」と社内で口裏合わせした際の証拠だと主張していた。

(令和元年12月8日/取り調べを文字起こしした裁判資料より)

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「なんでこんなものがあるの?いや知ってるでしょ。なんでこんなものがあるの?なんであるんですか?」

【K氏】「社内の同僚に相談をしたからですね」

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「さっきしてないって言ったじゃん」

【K氏】「はい」

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「で、なんであるの?なんで嘘ついたの?」

【K氏】「嘘っていうか同僚…」

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】(右手を自分の顔のあたりまで振り上げ、振り下ろし手の平で机を1回たたく)「嘘だろ!今のが嘘じゃなかったら何が嘘なんですか!」

 机を叩き威圧する田渕検事。取調室に大きな音が響き渡り、取り調べはこう続く。

【大阪地検特捜部(当時)田渕大輔検事】「もうさ、あなた詰んでるんだから。もう起訴ですよ、あなた。っていうか有罪ですよ、確実に」「命かけてるんだよ!検察なめんなよ!命かけてるんだよ、私は」「かけてる天秤の重さが違うんだ、こっちは」

 K氏はこの日およそ50分間、一方的に責め立てられ、15分間は大声で怒鳴り続けられた。K氏はそもそも任意の段階から、連日、密室で取り調べを受けて精神的にも肉体的にも疲弊していた。さらに、この高圧的で威圧的な取調べ。公開された映像の取り調べは、そのような状況を経てのものだった。

 「大罪人」「プレサンスの被った損害を一人で背負えるのか」そう迫られたK氏はこの後「山岸さんはO氏個人へ金を貸すと認識していた」と供述を変え、山岸さんは逮捕された。