ムクドリは悪者か? 専門家が指摘する都市の生態系への役割

AI要約

今年もムクドリの群れが駅前の街路樹に飛来している。自治体はふん害や鳴き声に悩まされているが、元々は農業害虫を食べる益鳥である。専門家は共存の道を選ぶべきだと提言している。

ムクドリは都市部の街路樹にねぐらを作り始めた経緯や特徴、対策として行われた剪定や音、光、鷹匠などの試みについて紹介されている。

越川さんの研究によると、ムクドリは都市部の生態系を支える重要な存在であり、共存を前提に都市づくりを進めるべきだとしている。

ムクドリは悪者か? 専門家が指摘する都市の生態系への役割

 駅前の街路樹などに今年もムクドリの群れが飛来している。ふん害や鳴き声による騒音に手を焼く自治体は多く、最近では「悪者」のイメージが強いが、元々は農業害虫を食べる益鳥として重宝されていた。専門家は「今も都市の生態系を支える大切な存在。『ここからいなくなればいい』という行き当たりばったりの対症療法ではなく、広域で連携し、共存の道を選ぶべきだ」と提言する。

 ◇街路樹に集まる黒い影

 「ギャーギャー」「キュルキュルキュル」

 何とも表現しがたい鳴き声が、辺りに響き渡る。6月中旬の夕暮れ時。千葉県柏市のつくばエクスプレス・柏の葉キャンパス駅西口のロータリーに、黒い影が集まってきた。止まり木は、歩行者が立ち入らないロータリー中央部の「交通島」と呼ばれるエリアに並ぶケヤキだ。

 歩道付近のケヤキには1羽も止まっていない。全国の研究者やバードウオッチャーらでつくる「都市鳥研究会」副代表で元高校教諭(生物)の越川重治さん(68)=同県船橋市=は「交通島にムクドリの『ねぐら』を残しながら、歩道のケヤキは枝葉が剪定(せんてい)されている。一番良い方法ですね」と評価する。

 越川さんによると、ムクドリは全長24センチ、体重75~90グラム。他の野生鳥獣と同様、鳥獣保護法によって許可なく捕獲や駆除が禁じられている。主に群れで生活し、春から秋にかけてはケヤキなどの街路樹に、冬は竹林などにねぐらを作る。かつては郊外にあったケヤキなどの防風林をねぐらにしていたが、高度経済成長に伴う開発の影響で都市部の街路樹に移ってきた。主にケヤキをねぐらとするのは、枝先が細いため揺れやすく外敵が近づいてもすぐに感知できるようにするためだと考えられるという。

 ◇剪定、鷹匠、音、光……対策を続けたが

 柏の葉キャンパス駅前広場の管理を柏市から委託されている一般社団法人「UDCKタウンマネジメント(TM)」によると、周辺のホテルや商業施設などが本格開業した2014年の「まちびらき」以降にムクドリが飛来するようになり、これまでに住民組織と協力してさまざまな対策で試行錯誤してきた。例えば、一斗缶や拍子木をたたく▽駅前の全てのケヤキを剪定する▽鷹匠(たかじょう)の協力を得て天敵のタカを飛ばす▽ムクドリが嫌う音の発生装置を使う▽強い光を照射する――などだ。

 ところが、全てのケヤキの剪定はムクドリの群れが近隣マンションのケヤキに移ってしまうという事態を招き、住民から「夜眠れない」との苦情が寄せられた。音や光はムクドリがすぐに慣れてしまった。

 こうした経験を踏まえて20年に始めたのが、ムクドリを交通島のケヤキに集約する「戦略的剪定」だった。鳴き声までは解決できないものの、ふん害などは植え込みの清掃を強化して可能な限り軽減するよう努めている。今年度からは活動内容の積極的な発信も心がけており、UDCKTMの大山浩太さんは「こちらが考えていることをしっかり周知し、多くの人に参加してもらうのが街として正しい姿だと考えています」と話す。

 ◇追い出しではなく共存を

 他の地域では、数メートルの高さでケヤキを切断したり、ロケット花火や爆竹を使って追い払ったりするケースもある。ただ、無理な追い出しは群れが電線などの人工物に移動したり、近隣エリアに移ることで肥大化したりする恐れがある。

 越川さんは03年から約2年8カ月かけ、JR津田沼駅(同県習志野市)前の公園でムクドリのふんを採取し、研究者らの協力を得て内容物を分析した。その結果、ムクドリたちは多種多様な果実類を食べており、「種子散布者」として都市部の生態系を支える重要な存在であることが分かった。越川さんは「追い出すのではなく、共存を前提にゆとりある都市づくりを目指すべきではないでしょうか」と指摘する。【千脇康平】