「解熱剤は飲まないほうがいい?」「咳止めが効くというエビデンスはない」…小児クリニックの医師が語る「風邪薬」の意外な真実!

AI要約

医師が小児クリニックで風邪を診察する際、肺炎のリスクを常に考慮している。

風邪の原因であるウイルスの種類や症状、治療法について詳細に解説されている。

風邪の治療には効果的な薬がほとんどないことや、薬の効果についての誤解について述べられている。

「解熱剤は飲まないほうがいい?」「咳止めが効くというエビデンスはない」…小児クリニックの医師が語る「風邪薬」の意外な真実!

 クリニックの舞台裏でふだん医者たちは何を思い、どんなことを考えながら患者を診ているのか。『開業医の正体』(中公新書ラクレ)の著者で小児外科医の松永正訓医師が明かす、医療現場の実態と本音とは。

 小児クリニックを受診する患者の大半は風邪である。風邪がなぜ怖いかと言うと、それは肺炎になり得るからである。そういう意識でクリニックを受診する患者家族は、たぶんあまりいないと思うが、医者は常に肺炎のことを考えている。

 そもそも風邪とは何か。それは風邪を起こするウイルスが、患者の鼻やのどに感染し、炎症を作った状態である。原因となるウイルスは(数え方にもよるが)200種類くらいある。ちょっと大胆に言うと、子どもにとって新型コロナウイルスも風邪に過ぎない。

 鼻やのどに(これを上気道と言う)に炎症が起きると、鼻の粘膜が炎症を起こし、鼻水が出たり、鼻が詰まったりする。また痰などの気道分泌物が湧くため、これを切るために患者は咳をする。

 医師はこうした患者が受診したとき、何を考えて診察しているか。答えは簡単で、風邪が風邪の範疇に収まっているかどうかである。つまり、炎症が上気道にあれば、それはよしとする。熱心に胸の聴診をする理由は、気管支炎や肺炎になっていないかを探るためである。

 気管支炎や肺炎になっていれば、その後の検査・処置・治療・入院の検討など、やることがガラッと変わってきてしまう。だが、風邪の範囲と診断できれば「今は心配しなくていいですよ」と患者家族に説明できる。ただし、「今は」という条件がつく。

 風邪の患者に対してはどういう薬が有効だろうか。実はほとんどない。第一に風邪の原因であるウイルスを殺す根本的な薬は存在しない(タミフルはインフルエンザウイルスの増殖を少し抑えられる)。そういう意味で、風邪に効く薬はない。

 ところが実際には風邪を引けば医者から薬が出る。例えば、カルボシステイン(ムコダイン)とか、チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン)とかである。

 前者は、気道粘膜の炎症を抑制し正常化させることで喀痰や鼻汁の排泄を促す。後者は、咳止めとされている。だが、両者ともはっきり言ってめちゃ効くわけではない。

 特に咳止めに関しては、効くというエビデンスはない。このことは一般的にはまったく知られていない。医者でも知らない人がいる。「咳がひどいので、咳止めをください」という患者家族は多いが、残念ながらそういう良い薬はない。1歳以上なら、ハチミツを飲んだ方が効いたりする。

 医師によっては、アレルギー止めの薬を出して、「鼻水・咳を止めます」と患者家族に説明したりするが、風邪はアレルギーではないので、まったく意味なしである。

 またホクナリン(ツロブテロール)テープを咳止めと言って出す医者も多い。これは気管支拡張剤である。上気道の炎症に気管支拡張剤を使っても意味なしである。

 またこのテープで咳が止まると勘違いしている患者家族がけっこういて、「咳止めテープを出してください」と頼まれることがよくあるが、ぼくはすべて断っている。

 とにかく開業医は薬を出すのが大好きで大量に出す。何度も言うが、こういった薬はほぼほぼ効果がないし、2歳くらいの子どもは薬が嫌いなので、親は薬を飲ませようと子どもと格闘することになる。どうしても飲んでくれなかったり、ようやく飲んでも全部吐いてしまったりで、精神的に参ってしまう親もいる。風邪薬は、副作用=ゼロではないことも知っておいた方がいい。