「良い医者」はどこにいる?…開業医が明かす、名医にめぐりあう「超カンタンな方法」があった!

AI要約

2歳の女児が謎の腹痛を訴え、ウイルス性胃腸炎と診断されたが、症状が改善せず、別の医師に診てもらうことになる。

別の医師が超音波検査を行い、先天性胆道拡張症と診断。この病気は手術が必要で1ヵ月以上の入院が必要となる。患者は大学病院に緊急入院することになる。

患者が最初から専門医に診てもらっていれば、迅速な治療が受けられた可能性があることが示唆される。

「良い医者」はどこにいる?…開業医が明かす、名医にめぐりあう「超カンタンな方法」があった!

 できるなら名医に診てもらいたい。しかし、いったいどうすれば出会うことができるのか――。いま注目の話題書『開業医の正体』(中公新書ラクレ)の著者で、小児外科医の松永正訓医師がアドバイスする。

 「後医は名医」という言葉をご存知だろうか。最初に診た医者より、後に診る医者の方が、いろいろな意味で名医になってしまうという意味だ。

 数年前にこういうことがあった。2歳の女児が腹痛を訴えてうちのクリニックにやってきた。初診の患者である。

 4日前から腹痛があり、これまで何度も食事を吐いたという。体温も38℃くらいある。2日前にかかった医者からはウイルス性胃腸炎と言われ、吐き気止めと整腸剤、そして解熱剤を処方された。しかしまったく改善傾向がないと母親は泣きそうな顔で訴える。

 診察台に寝かせてお腹を触ると女児は大泣きで、どこが痛いのかよく分からない。ウイルス性胃腸炎の嘔吐は、だいたい48時間くらいで終わることが多く、発熱も72時間くらいで収まることが普通だ。だから、この患者はちょっと経過が長引いている。しかしこういうウイルス性胃腸炎もないわけではない。

 では、どうするか? この子がうちのかかりつけだったら、「あと1日様子を見ましょう」と言っただろう。「まあ、そろそろ治ります」とか付け加えたかもしれない。しかし、この家族は、あえてぼくのもとをわざわざ訪ねてきたのだ。ウイルス性胃腸炎という診断名に納得していないのかもしれない。

 「お母さん、超音波検査をやらせてください。ちょっと軽くお子さんを抑えますが、そっとやりますので」

「はい、ぜひ、お願いします」

 ぼくはベッドサイドに超音波検査装置を運び、電源を入れた。看護師さんに女児を軽く抑えてもらい、プローブをお腹に当てる。上腹部をさっと見ただけですぐに診断が付いた。胆道が球のように大きく広がっていたのである。

 「これはですね…先天性胆道拡張症というちょっと厄介な病気です」

「え! なんですか、その病気は?」

 母親の顔が曇った。

 「胆道というのは、肝臓で作った胆汁という消化液を十二指腸まで運ぶ管です。それが生まれつきボール球のように広がってしまっているんです。たぶんその広がった部分で感染が起きているのだと思います」

「治るんですか?」

「まず入院です。入院して抗生剤で感染を収めます。それから膵炎を起こしているかもしれません。その治療も必要です。もちろん同時に検査も進めて確定診断を付けます」

「薬で治るんでしょうか?」

「治りません。感染とか膵炎が治ったら手術が必要です。入院は最低でも1ヵ月かかります」

「そんなに!」

「今から大学病院に入院しましょう。大学に電話を入れますから、お母さん、この足で病院へ行ってください」

「じゃあ、胃腸炎ではないんですね?」

「そういう簡単な病気じゃありません。先天性胆道拡張症はかなり難易度の高い手術が必要になるんです。胆管炎とか膵炎ってかなり痛いので、お子さんはつらかったと思います」

「……こんなことなら、最初からここに来ればよかった」

 そう言ってお母さんは涙ぐんだ。

 お母さんにはぼくが名医に見えたかもしれない。だが、ぼくは名医ではない。「前の医者が治せなかった」と言われると、後の医者はどうにかしようとモチベーションがかかる。その結果、普段やらない検査を加えたりする。

 だから、この患者さんが最初にうちに来ていたら、ぼくは「ウイルス性胃腸炎ですね」と言って同じような処方をしただろう。そして後の医者が先天性胆道拡張症を疑って大きな病院へ紹介したかもしれない。