独身女性=悲しい人?大磯町で出会った女性たちに学ぶ、「ひとりでいたい自分」を受け入れる生き方

AI要約

和田靜香さんが、日本のジェンダーギャップ指数や大磯町議会でのパリテの達成について取材を通じて得た気づきや考えを振り返る。

選挙ステッカー活動から政治への関心を深め、政治の理解を深めるきっかけとなった出来事について語る。

大磯町議会の活発な議論と町民参加に触れ、話し合いが民主主義を体現する重要性を認識する。

独身女性=悲しい人?大磯町で出会った女性たちに学ぶ、「ひとりでいたい自分」を受け入れる生き方

2023年の日本のジェンダーギャップ指数は146か国中、125位。特に政治分野は138位と、低い順位が目立ちます。政治分野での男女格差が大きい日本ですが、神奈川県中郡大磯町議会は、約20年前にパリテ(男女同数)を達成しています。『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』(左右社)では、ライターの和田靜香さんが、大磯町議会や大磯町で暮らす人々を取材する中での気づきや、これまでに女性ゆえに経験した、モヤモヤした出来事を振り返っています。和田さんが「ひとりで生きること」を肯定できるようになった理由とは。詳しくお話を伺いました。

■「争点」「財政」という言葉も知らなかった頃

――和田さんはどのようなきっかけで、社会問題や政治に興味を持ったのでしょうか?

永田町の総理大臣官邸前で2012年に始まった反原発集会に参加するようになったのが最初です。その頃に、ある選挙の結果を見て、投票率の低さに驚いて。ここで「原発反対!」と言っていたところで、投票率が低かったら何も変わらないと思いました。

ニューヨークにいる友人が書いた記事を読んで、アメリカのセレブが大統領選挙へ行き、「I voted」と書かれたステッカーを顔などに貼った写真を、インスタグラムに投稿していることを知り、日本でも真似したいと思って、Twitter(現X)に投稿しました。そうしたら「和田さんがやりなよ」って友達に言われて、2013年に「選挙ステッカー」という活動を始めました。

でも、社会運動をしたことがなかったので、戸惑っていたんです。そんな中、イラストレーターの友人や吉田戦車さん、漫画家のヤマザキマリさんがイラストを描いてくれたり、ふわふわしている私を見かねて、「ツイッターで見ました」という人も手伝ってくれたりして、運動は盛り上がりました。

活動が注目されて、新聞にも取材されたのですが、記者さんに「今度の選挙の争点は何ですか?」と聞かれたことがあって。私はただ投票率を上げたかっただけなので、政治のことは全然わかっていなくて、「争点って何ですか?」と聞き返したら、記者さんが愕然としていました(笑)。

――とにかく「投票率を上げたい」という思いで活動していたのですね。

その後の大きな分岐点は『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』を執筆したとき。「財政」という言葉も知らなくてググったくらい、何もわからなくて、図書館と本屋さんに通いながら、闇雲に学んでいきました。

私はコロナの流行初期にバイトをクビになって、「もう生きていけない」と思いました。それまでも、「バイトばかりしている自分は本当にダメな人間」「なんでこんな人生を選んでしまったのだろう」と、毎日絶望していたんです。

でも、本を作っていく過程で徐々に社会の構造に問題があると気がついて、この生きづらさは私のせいではないと思えるようになりました。それが政治への関心が高まるきっかけだったので、自分の悩みが政治と直結していることに気づかなかったら、政治に関心を持たないままだったと思います。

■とにかくたくさん話し合う大磯町議会

――今回取材された、神奈川県中郡大磯町の議会は、約20年前にパリテ(男女同数)を達成しています。取材を通じて、印象に残っていることをお聞かせください。

とにかくたくさん話し合っていて、大磯町議会の姿から、「話し合うことが民主主義」ということを教わりました。もちろん、話し合いをたくさんしているから大磯町議会が100点満点というわけではないですが、あまり話し合いをしない議会よりは、充実していると感じました。

議員さんの間に年功序列がないところも驚きましたし、大磯町議会は会派(※)がないんです。会派があると、意見を集約しやすいというメリットはあるものの、見ている側からすると、賛否が会派の意見であって、その人個人の意見かはわからないこともあります。町議会議員が14名と少ないから、一人ひとりの意見が尊重されやすく、また同じ政党に所属している人でも賛否が割れる場面があります。

本が出た後も大磯町の議会報告会に参加していますが、何人もの町民が意見を伝えたり、具体性のある質問をしていました。活発に議論を行う町議会の姿が、議会や地域に関心を持つ町民を増やしていくのだと思います。

――大磯町で暮らす人々との出会いも書かれていました。和田さんの考え方や物の見方にはどのような変化がありましたか?

大磯町に注目した最初の理由はパリテだったので、最初は議会に行きました。でも議員を作るのは一般市民なので、町民に会いたいとは思っていたんです。最初は地域ごとの自治会長に会いに行こうと思っていたのですが、全員男性ということで……。取材の趣旨を踏まえると、男性に話を聞くのは違うと思って。途方に暮れていたのですが、散歩していたら、偶然の出会いが重なりました。

大きく影響を受けたのは、二人の女性。一人は「ギャラリーumineko」の鈴野さん。鈴野さんは議員以外では、初めて大磯町で出会った女性です。話しているうちに、鈴野さんは正規で働いたことがないということを聞かせてくださって。でも「その都度、やれることはやってきたと思います」とおっしゃっていて、ドキッとしたんです。私はそういうふうに言えないなって。鈴野さんの話から思ったのは、やりたいことや好きなことは原動力になるということ。私も自分の中にいつもあった「書きたい」という気持ちに気がつくことができました。

もう一人は、70代のよりちゃん。よりちゃんは、60代でだんだんと目が見えなくなって、65歳から盲学校に通ったり、ほぼ目が見えなくなってからマッサージの仕事を始めたり、リハビリテーション施設で生活訓練をして、一人で暮らしている話を聞かせてくれました。よりちゃんは年齢を重ねてから目が見えなくなっても、施設には入りたくないという強い意思を持っていて、「ひとりがいいよね」と言っていて。私も自分の中にある「ひとりでいたい」という気持ちを肯定できるようになりました。

――「女性がひとりで生きること」へのイメージも変わったのですね。

私は実は一ミリも子どもを産みたいと思ったことがないんです。でも「女性とはこうあるべき」という社会通念に縛られてもきました。だから「お金がないうえに、結婚もしない私はなんてダメな人間なんだろう」って自分を傷め続けて、ずっと自分を認められなかったんです。

私のように「女性はこうあるべき」という規範に影響を受け、自分を否定してしまったり、自分に力があると思えなかったりする女性は多いと思います。でも、私がずっと思えなかったことを、二人は堂々と言っていて、私の生き方も変えてくれました。

社会では、独身女性を「結婚できなかった悲しい人」という扱いをしがちです。でも大磯町で出会った女性たちは、自分でお店を開いている人も多くて、ひとりでもすごく楽しそうに充実した日々を送っていて。「女性が結婚せずに生きていくこと」の固定観念を崩してくれて、「ひとりで生きるのっていいな」って思いました。

中高年のシングル女性は「貧しくてかわいそうな人」として取り上げられることが多いです。 確かに、私が取材をしていても、生活が苦しい人は多いと感じます。でも、大磯町で出会った女性たちは、お金持ちではないものの、自信を持って堂々と生きている姿を見せてくれて、私はすごく救われました。

■「結婚しなければならない」と思っていた

――和田さん自身は「本当はひとりでいたい/ひとりでいることが楽しい」と思っていたものの、「結婚して子どもを産むべき」という規範に苦しんだのでしょうか?

そうですね。私が20~30代の頃は結婚するのが当たり前で、異性愛が前提の恋愛至上主義の風潮も強かった。それが当たり前だったから「自分もそうしなきゃ」と思っていましたし、当時は自分の中の「結婚しなければ」と「結婚したい」の違いに気づいていませんでした。本当は「結婚したいと思ってないのに、しなきゃ普通じゃない」と思っていたので、苦しさを感じてたのだと思います。

今も一時的な時間だけ、友達とワイワイと過ごすのは楽しいですが、基本的には一人でいるのが好きなんです。家に生き物の気配があることが本当に苦手で、落ち着かなくなってしまって。

――昔ほどではないものの、今でも「結婚したくない女性」=「結婚できない女性」と扱われることはあるように思います。

「和田ちゃんが結婚できないのは、そうやって自分を出しすぎるからだよ」「(好きでショートカットにしているのに)髪を伸ばしたらいい」「痩せたら結婚できる」など、聞いてもいないのに、山のようにアドバイスをされてきました。私はお金がなくて生活が苦しい期間が長かったので、「結婚すれば生活が楽になるから、結婚しなきゃダメだよ」ともよく言われましたね。

「お金のない女性は結婚すべき」という規範もおかしいと思うんです。社会の仕組みを調べていくと、女性がひとりで働いて生きていく選択が想定されていないことがわかります。「女は小遣い程度の収入があれば十分」と、社会で女性の非正規雇用を進めてきました。だから女性が稼げないのは自己責任じゃない。今まで、女性がひとりでも生きていけるよう社会構造を変えるのではなく、女性に「結婚して男性に養われる」という同じ生き方を強いてきた。そのことをもっとみんなに気づいてほしいです。

※会派:議会内での活動を共にする集まり。

【プロフィール】 和田靜香(わだ・しずか)

1965年生まれ。相撲・音楽ライターにして、政治ジャンルで『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』(左右社)の2冊を上梓。累計3.6万部を突破。

インタビュー・文/雪代すみれ