なぜ『ガールズバンドクライ』は貧乏になった日本で怒り続ける女の子が主人公なのか?――平山理志Pに聞く

AI要約

オリジナルアニメ『ガールズバンドクライ』の制作秘話。主人公の井芹仁菜は怒りを抱え、軋轢を生むが、リアリティー重視の物語作りとは?

プロデューサーが地に足のついた物語を求めた背景とは?登場人物の怒りや矛盾を描いた理由も明かされる。

登場人物やストーリーを通じて、現代の若者の生き方や意志が描かれる。物語のリアリティーとは一体何か。

なぜ『ガールズバンドクライ』は貧乏になった日本で怒り続ける女の子が主人公なのか?――平山理志Pに聞く

大きな話題となったオリジナルアニメ『ガールズバンドクライ』。手がけたのは平山理志プロデューサー。主人公の井芹仁菜はいつも何かに怒り、メンバーとも衝突する。『ラブライブ!』から一転、泥臭い本気のバンド物語を描いた理由とは?

暗い時代を生きる人々に寄り添うのは「地に足のついた」物語だ

 人気作が並んだ2024年春番組で大きな話題となったオリジナル作品が『ガールズバンドクライ』だ。手がけたのは平山理志プロデューサー。2019年に東映アニメーションに入社した平山氏は、『ラブライブ!』シリーズを共に作ってきた監督・演出家の酒井和男氏にシリーズディレクターを、そして花田十輝氏に脚本を依頼。新たなオリジナル作品を作り始めた。

 

 コンセプトは「音楽もの×今の時代を反映した物語」。生きていくのが大変な時代にマッチする主人公と物語を数年かけて探っていったという。

 

 結果、完成した物語はいわゆる「美少女アニメ」の枠から大きくはみ出していた。主人公は高校を中退して上京した少女・井芹仁菜。憧れの存在である桃香とバンドを始めるが、いつも何かに怒り、メンバーとも衝突する。『ラブライブ!』から一転、美少女アニメで泥臭い本気を描いた理由とは?

 

『ガールズバンドクライ』ストーリー

 

高校2年、学校を中退して単身東京で大学を目指すことになった主人公。仲間に裏切られてどうしていいか分からない少女。両親に捨てられて、大都会で一人バイトで食いつないでいる女の子。

 

この世界はいつも私たちを裏切るけど。

何一つ思い通りにいかないけど。

でも、私たちは何かを好きでいたいから。

自分の居場所がどこかにあると信じているから。

 

だから、歌う。

 

STAFF

原作・企画・製作:東映アニメーション、シリーズ構成:花田十輝、音楽プロデューサー:玉井健二(agehasprings)、劇伴音楽:田中ユウスケ(agehasprings)、キャラクターデザイン:手島nari、CGディレクター:鄭 載薫、シリーズディレクター:酒井和男

 

CAST

井芹仁菜:理名、河原木桃香:夕莉、安和すばる:美怜、海老塚智:凪都、ルパ:朱李

 

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「抗っていく主人公」を描く

―― 『ガールズバンドクライ』は、東映アニメーションがオリジナル作品としてバンドものを作るという点で斬新でした。今作の企画立ち上げの経緯をお聞かせ下さい。

 

平山 2019年7月に東映アニメーションに入社したところ、「オリジナル作品に力を入れていきたい」というお話をいただいたこともあり、さっそく翌8月から企画をスタートさせました。

 

 監督と脚本家は『ラブライブ!』時代からずっと一緒にやってきた方と組みたいと思い、酒井和男さん(監督・シリーズディレクター)と花田十輝さん(脚本・シリーズ構成)にお声がけしました。

 

―― 『ラブライブ!』の座組だったのですね。では、そのメンバーでアイドルものではなく、「バンドもの」になったいきさつは?

 

平山 オリジナル作品を作るにあたり、僕が最初に酒井さんと花田さんにお願いしたテーマが2つあります。1つは「音楽アニメ」であること。つまり、我々が持っている強みを活かしたい。

 

 そしてもう1つが「今の時代を反映した物語にしたい」。では、どんな物語がお客様の心に響くのか。それを3人で考えました。

 

―― 企画がスタートした2019年当時は、これからどんな世の中になっていくと思っていましたか?

 

平山 3人で色々シミュレーションをしたのですけれど、まず2020年のオリンピック後にはきっと景気が悪くなるよね、と。近年のオリンピック開催国は、たいていその後大変なことになっています。日本でも同じような状況が起こるのではと予想していました。

 

 いざフタを開けてみたら、コロナ禍で景気は予想以上に悪化。世の中の雰囲気は閉塞的になって、ある意味、僕らが想定していた流れになりました。みんな貧乏になって、余裕がない時代だなとはすごく感じています。

 

―― 『ガールズバンドクライ』の主人公・仁菜は、東京で生活していくための家賃問題に直面しますが、これはアニメを視聴するお客様たちが「まず貧乏なところに共感するだろう」と思われたからですか?

 

平山 そうですね。今の時代、僕もそうですが、みんな生きていくのが大変だろうと思います。円安とかインフレとか少子高齢化が進んでいくなかで「どこに明るい未来があるのだろう?」と思うことが少なくありません。

 

 そういった雰囲気をちゃんと作品内でも描かないと、視聴者の方々の共感は得づらいものになるのではないか。ですから物語も「地に足のついた話」にしようと思いました。

 

地に足のついた話×音楽=上京する女の子のバンドものに

平山 その次は、「地に足のついたお話」に向いている「音楽的モチーフ」ってなんだろうと考えました。すると花田さんから、「上京する女の子がバンドをする話はどうだろう」と提案がありまして。地に足がついているという意味ではぴったりだなと。

 

 バンドものは、プロデューサー的な視点で見ると手間もコストも大変です。けれども、制作者視点から見るとすごく面白そうでした。それで「やってみましょうか」と腹をくくりました。

 

 花田さんは「上京する女の子のバンドの話」というコンセプトが見えた途端、キャラクターもストーリーもあっという間にご自身で決めてくださったので、そこから酒井さんと僕が加わり、3人で整えました。

 

―― 物語と登場人物の根幹は、脚本の花田さんが決められたのですね。平山さんから見ると、バンドものはどのあたりが「地に足がついている」と感じたのでしょうか?

 

平山 音楽でご飯を食べていくのは大変で、生活を含めたさまざまな苦労があります。「仲良しこよし」のままじゃできないでしょう。そしてバンドものなら、そこを描かなくちゃいけませんから。

 

―― メンバーが10代の女の子たちでも?

 

平山 ガールズバンドだって、バンドなんだから同じかなと。僕は花田さんが上げてきた第1話のシナリオを読んだときに感動したのです。「井芹仁菜、こんな主人公見たことない!」と。

 

 だって「中指立ててください」と言っている段階で、このシナリオすごいなと思うわけじゃないですか。今の世の中の気分をすごく表わしていますよ。

 

かつてアニメ業界は「親に反対されながら入る場所」だった!?

―― 主人公・井芹仁菜は高校を中退して単身上京、桃香とバンドを始めます。でも、物語序盤は特に、桃香にも、すばるにも、そして自分の家族にも怒ってばかりいましたね。仁菜の怒りの感情というのは、若者たちが抱えるどんな感情だと思いましたか?

 

平山 仁菜たちが持っている「中指立てたくなる」ような感情って、オモテに出すか出さないかは別として、みんな、何かしら持っている普遍的なものかなと思います。

 

 子が社会に出るときは、往々にして親との衝突が発生します。それが普遍的かどうかはわかりませんが、少なくともシナリオ打ち合わせに参加していたメンバーは多かれ少なかれ経験していたので、「夢を追う」とはそういうことだろうと。

 

―― 私も親の反対を押し切って東京に出てアニメのライターになりました。やはりみなさん共通していますね。

 

平山 僕の場合は、そもそもアニメ業界で生きて行けるのかという懸念がありつつ、最初に入った会社がマッドハウスという親からしたら知らない会社だったこともあり、大反対されました。でもやりたいことがあるから「すみません」と言って業界入りしました。当時はクリエイターの道に進むハードルが今より高かったと思います。

 

 僕らが大人になった後、一時期は「自由にやって良い」「フリーターで好きに暮らす」という時代が続きました。けれど不景気になったことで、その頃とは全然違う世の中になっています。

 

 若い人たちは「まず安定を手に入れなければ」「絶対正社員になるんだ」みたいな風潮になってきているように感じますね。

 

世の中が貧乏になって若者は正社員志向だが

―― ではなぜ、若者たちが正社員志向になった時代の作品にもかかわらず、仁菜は自分の好きなことでプロになるために予備校を辞めるなど「退路を断つ」描写をしたのでしょうか?

 

平山 なぜでしょうねそのほうが人生面白いと思ってしまったのですよ。

 

―― ほー。

 

平山 そして結果的に「もの作りをする人たちの話」を描くことになったからでしょう。敷かれたレールをただ進んでいても良いものは作れませんよね。ですので、「世の中は安定を求める正社員志向だけれど、そうじゃない人もいるよね」と。

 

 前提として「今の世の中を描く」というテーマはありますが、「地に足がついている」というのは、精神性が今の時代に合っていれば良いのです。

 

 第1話のシナリオを読んで、キャラクターの精神性が今の時代を捉えていて「リアリティーがあるな」とは思いましたが、だからといって主人公たちが今の人々の生き方・志向までトレースする必要はありません。

 

 気持ちや意志を持っている子たちならば、普通の人が思っていてもできないことをしてくれるのではと考えたのです。

 

―― 時代に逆張りしてくれる主人公なのですね!

 

昔のアニメは当たり前に「負の感情」を描いていた

僕らも「ぬるい」ことはできない

―― 仁菜がいつも何かと戦っているようなマインドで描かれていて、そこが興味深かったです。背景や意図などはありますか?

 

平山 今のアニメ作品では、普通の人が抱える負の感情に焦点を当てることがあまりありません。僕は花田さんのシナリオを読んで、その点にも惹かれたのです。仁菜に限らず、若いときはさまざまなものに対して腹を立てるじゃないですか。「みんな死ね」とか普通に思ったりします。

 

 僕が子どもの頃は、そんな普通の人が持つ当たり前の負の感情を当たり前に描くアニメ作品がたくさんありました。たとえば富野由悠季監督や高橋良輔監督も描いています。なら、僕らも「ぬるい」描き方はできないなと。

 

 せっかくオリジナル作品を作るのなら、観た人が単に楽しかっただけでなく、何かグサッときたり、「今後どうやって生きていこうかな」みたいなことまで考えたりできるような作品を作りたいのです。

 

 『ラブライブ!』のときは、観た人たちが明日を生きる活力をもらって元気になってくれれば良いな、という思いですごく明るい話にしたのですが、今回は世の中が暗い方向に変わってしまったので、仁菜たちの感情のエネルギーに共鳴してもらうなど、違う形で背中を押してあげられるような話になったら良いなと。

 

「東京の家賃払える?」リアリティーを追求したら川崎になった

―― 仁菜が住む舞台を川崎に設定した理由は?

 

平山 バンドもので女の子が上京するお話にすることは最初に決めていたので、まずは東京23区内で舞台を考えていたのですが、どこもピンと来なかったのです。

 

 そこで横浜にも何回か足を運んだものの、華やかでロックバンドとは何か違うなと。そんなとき偶然読んだのが『ルポ 川崎』(磯部涼/サイゾー)という本でした。川崎の臨海部に不良少年たちがいる背景や、ラップという音楽表現によって上を目指していく、といったことが描かれていて興味深かったのです。

 

 音楽を手がかりに這い上がるというのはこの作品に合っているかもしれないと思い、主要スタッフで行ってみたところ、JR川崎駅を降りた途端、「音楽のまち・かわさき」という垂れ幕がバーンと。

 

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ルポ 川崎磯部 涼サイゾー

 

 

 

―― なんと!

 

平山 しかも駅前にはストリートミュージシャンがたくさんいて、楽器屋さんもいっぱいある。音楽活動がしやすい環境なのです。住環境も良くて、緑も多いですし、結構住みやすい街で、これは色々ピッタリだと思いました。みんなも一発で「ここだ、ここにしよう!」って。

 

―― 桃香が仁菜に「家賃いくら?」と聞くシーン、あれもリアルでした。

 

平山 家賃の安い場所があるというのはすごく良いなと。多摩川を渡ると家賃の相場が変わるのです。2020年当時、川崎の不動産屋さんに行くと、3万円台からマンションに住めました。

 

 これならお金のない若い女の子でもギリギリ暮らせます。上京してバンドをやる女の子にすごくリアリティーを持たせられる街だと思ったのです。

 

 花田さんが書いてくださった第1話のシナリオには、桃香が仁菜に「家賃いくら?」「どうやって暮らすの?」と聞くシーンがあって僕も感動しました。知らない街に来て一人暮らしする仁菜の心細い様子とか、上京したときのリアリティーがものすごく伝わってきて。

 

 地に足がついた話にする、地に足がめり込んだぐらいの感じで作るためには、土地というリアリティーが必要だと思いました。

 

多国籍な川崎の今を反映したルパ

―― 実際の場所を描くことで、地に足のついたリアリティーを出したのですね。

 

平山 川崎を舞台にした理由はもう1つあります。現在は国籍も多様になってきていますので、それも描かなくてはと思いました。

 

 現在、日本の人口に占める外国人の比率は5%弱です。しかも減ることなく、むしろ増えています。その一方で日本人は減っていますから、このパーセンテージはどんどん上昇するわけです。今は旅行客として外国人を多く見かけますが、今後は地域に根付く方々も増えていくでしょう。

 

 実際、川崎の沿岸部は外国の方が目立つ多国籍な街でした。であれば、ハーフの子がバンドメンバーにいてもおかしくありません。

 

「トゲナシトゲアリ」はオーディションに1年半かけた

―― 『ガールズバンドクライ』の主題歌・挿入歌を担当し声優を務めているのがリアルバンド「トゲナシトゲアリ」のみなさんです。アニメを通してトゲナシトゲアリのバンドとしての高い実力に驚きました。どのようにして実現されたのですか?

 

平山 「音楽ものでバンドの物語をやる」そして「音楽の比重が非常に大きい作品を作る」ために、今回の『ガルクラ』では演奏ができるメンバーをイチから集めてバンドを作ることから始めました。

 

 そのバンドメンバーが、アニメの声優として出演する――それが一番良いと思いましたし、作品の軸としてぶれさせなかった部分でもあります。

 

―― 「演奏ができるメンバーを集めてバンドを作って、声優も務める」。このプランを実行に移すのは非常に難易度が高いと感じます。しかも芸能事務所に所属している人ではなく「イチから作る」というのも。制作費の限界もありますし、思い切りましたね。

 

平山 バンドを描く物語で音楽がちゃんとしてなかったら、仁菜たちの本気やバンドの世界がすべて嘘になってしまいます。それを表現するにはもうミュージシャンでないと担保できない、と思ったのです。

 

 ですから、僕が信頼している音楽総合クリエイティブカンパニーであるアゲハスプリングス代表の玉井健二さんにご相談し音楽プロデューサーとして入っていただき、バンドの全楽曲を含むトータル・プロデュースと音楽の制作をお願いして、メンバーをイチから集めていただきました。

 

―― メンバーはどのように集めたのですか?

 

平山 オーディションで発掘しています。アゲハスプリングスさんがオーディションを始めたのが2021年の6月末。僕がメンバー全員と会えたのは2023年2月ですから、メンバー集めに1年半くらいかかっています。

 

 時間がかかった理由は、なかなかボーカルが見つからなかったためです。ボーカルはバンドのキモであり、魅力的な歌声でないと仁菜たちと物語の説得力がなくなってしまいます。

 

 また、玉井さんとしても“仮にもしアニメがなくて5人組のガールズバンド単体だとしても、世界で勝負して勝てるボーカルしか選ばない”という高いハードルを設けて選考されていました。

 

 最終的にお客様に聴いてもらうためには、作り手の僕ら全員が納得できる人じゃないといけません。非常に難しい条件だったのですが、アゲハスプリングスさんは理名さんを見つけてくださいました。アゲハスプリングスの皆様には本当に感謝しかありません。

 

 アフレコも最初からうまかったですね。彼女は、主役の声だなって。ほかのメンバーも演奏がとんでもなく上手くて、しかもキャラクターの声にぴったりだったんです。奇跡の出会いだなと思いました。

 

怒りを表に出す女性主人公が受け入れられた理由

―― 『ガールズバンドクライ』を観て驚いたのは、仁菜という女の子の「怒り」の感情が思いきり描かれていることでした。すばるに初めて会ったときも「ライブに行った」などの何気ない言葉にトゲトゲした感情が現われたり、せっかくもらったルームライトを振り回して破損させてしまったりして、いわゆる「美少女アニメ」の枠からははみ出ていました。

 

平山 仁菜という子は、理不尽な目に遭ったり、自分からその状況を突破しようと家を飛び出してきた子です。そんなバックグラウンドを背負っている子だから、出会った未知のものが敵に見えたり、怒りの感情が破壊につながったりもします。シナリオを読んでいるときも「ああやっぱり、この状況に遭遇したら仁菜はこう動くよね」とうなずいていました。

 

―― でも、「こう動くよね」と思っても、それをオモテに出すのはプロデューサーとして別の勇気が必要です。「美少女アニメ」であれば、狙うのは男性ファンですよね?

 

平山 そうですね。女性を主人公にした段階で、我々もまずは男性アニメファンの皆様に好きになってもらうことを目指していました。でも実際にアニメの放送が始まるまでは、仁菜が嫌われてしまったり、美少女アニメのファンに受け入れられないのではという怖さもありました。

 

―― やはり怖さはあったのですね。

 

平山 バンドもので、お話や背負っているものもリアルに重めで、主人公の仁菜はいわゆる明るい元気な子とはむしろ真逆のタイプです。僕らもシナリオを作りながら、やはりこれまで慣れ親しんだ美少女アニメのフォーマットに戻りたくなる誘惑には駆られました。

 

 それでも、第1話のシナリオを読んだときの感動をそのまま突き詰めていくべきだと。

 

主人公とは「状況を作る者」だ

―― どうして仁菜という主人公が受け入れられたのだと思いますか?

 

平山 ある意味、仁菜は(『新世紀エヴァンゲリオン』の)碇シンジなのかなと。彼も苦悩しながら周囲とよく衝突する主人公でしたよね。でもすごく人気が出ました。それは彼がちゃんと「主人公」足り得ていた、その条件を持っていたからだと僕は思うのです。

 

―― 主人公には条件がある?

 

平山 アニメを作るときに、状況を先に作っておいて主人公を置くだけですと、主人公が状況に振り回されているだけの作品になってしまいます。

 

 主人公とは、置かれた状況は状況として、それとは別に自分の意志を持つ者です。自分の意志で状況を作っていって、周りに影響を与えていく。それが大事だと僕は思っています。

 

地に足をつけると、1クールで武道館に行けない

―― 地に足がついた登場人物と物語を描いてきた『ガールズバンドクライ』ですが、着地点もリアルになりましたね。

 

平山 よくあるパターンですと、1クールで武道館に行ってしまいがちです。サクセスストーリーでどんどん進むわけですが、作っている最中に思ったのです。地に足がついた話を描いていたら、この子たち、そんな簡単には武道館行かないなって。

 

 ですから1クールの最後も、本人たちが望む成功では終わらない。成功したら嘘になっちゃう。そうならずに終わるのがすごく良いなと。

 

―― では、今後も続いていく?

 

平山 オリジナルなので、人気が出れば次が作れる、というところなので、お客様の応援や今後の展開次第で見えてくると思っています。お客様の応援の声は本当に感謝しかありません。

 

〈後編は明日15時公開〉

 

文● 渡辺由美子 編集●ASCII/村山剛史