「いいね!光源氏くん」で気付く繊細な言葉の文化 全方位ch

AI要約

小学生の頃、瀬戸内寂聴さん訳の源氏物語と、一首ずつ漫画が付いた百人一首の解説本を読み、雅で奥ゆかしい平安時代の文化に憧れた体験。

大人になっても源氏物語に魅了され、NHK大河ドラマと「いいね!光源氏くん」というラブコメドラマに再び触れて感動している。

現代に蘇る光源氏の物語に心を奪われ、和歌の美しさと日本語の繊細さに触れ、文化の変化に対する考察。

「いいね!光源氏くん」で気付く繊細な言葉の文化 全方位ch

小学生の頃、むさぼるように読んだのが、瀬戸内寂聴さん訳の源氏物語と、一首ずつ漫画が付いた百人一首の解説本だった。平安時代の雅で奥ゆかしい(ただし恋愛と権力争いはエネルギッシュな)貴族たちの文化に憧れ、覚えた和歌は声に出して読み、古い日本語に漂うたおやかで美しい響きを何度も確かめた。

幼少期に磨いたその感性を記憶の彼方に置き去りにしてうん十年。NHK大河ドラマ「光る君へ」で久しぶりに〝源氏物語熱〟に火がついた勢いで、5月に再放送していた奇想天外なラブコメドラマ「いいね!光源氏くん」を録画したのだが、あまりの面白さにシーズン2まで一気に見てしまった。

光源氏が物語の世界から千年後の現代に〝次元ジャンプ〟して、OLの沙織の部屋でひも同然の同居生活を始める-というあらすじで、令和2年の放送時は、さすがにばかばかしいかな…とスルーしていた。だが、再放送の1話目を見終わったとき、わが身がえもいわれぬ癒やしに包まれているのに気付いた。

その最大の理由が、千葉雄大さん演じる光くん(光源氏)の浮世離れしたおっとりとした所作と、子犬のような愛らしい表情であることは言うまでもないが、もう一つ、劇中の「和歌」が効いている。

光くんはおいしいものを食べたり美しいものに出あったりすると、ところ構わずその感動を和歌に詠む。カフェで抹茶ラテフロートを初めて飲んで「若草の~にほへる春や~」と朗々と詠(うた)い出して沙織(伊藤沙莉(さいり)さん)を困惑させたかと思うと、沙織の妹のネイルを見て「たをやめの~細き手指に~…」。手弱女(たおやめ)なんて言葉は久しぶりに聞いたけれど、柔らかくてすてきな響き。こんな情緒あふれる言葉選びは忘れていた。

作者の意図を読み手が想像して味わう和歌のように、日本には直接的な表現を避け「行間を読む」という繊細な文化がある。しかし、手紙からメール、SNSとコミュニケーションツールが進化するにつれ、行間を読む暇すら与えられないほど早いレスポンスが求められるようになり、美しい言葉と、その言葉を選んだ相手の心を想像する豊かな時間は削られていった。

無味乾燥なものになってしまった自分の日本語を見直す、こんなドラマがもう少しあってもいい。(佐)