甲子園のリポートでは「負けコメントがいい」と褒められた【武内陶子「今があるのは…」】

AI要約

武内陶子さんが新人時代に高校野球の実況を担当し、練習や負けコメントに苦労したエピソード。

地元高校と一緒に甲子園へ行く際、負け続きで「負けコメントの女王」と呼ばれるようになる。

松山局での新人アナ時代を経て、大阪、東京へと異動する様子。

甲子園のリポートでは「負けコメントがいい」と褒められた【武内陶子「今があるのは…」】

【武内陶子「今があるのは…」】#3

 元NHKアナウンサーの武内陶子さん。新人時代は甲子園のスタンドで高校野球のリポートも務めたが、担当した高校は負け続きで……。

 愛媛は高校野球が盛んで全国大会の優勝回数も多く、松山放送局では夏の県大会の1回戦から中継していました。新人時代はかなり実況をやらせてもらいましたよ。

 練習もしました。強豪の松山商業高校の練習を見学に行き、監督さんに「実況の練習をさせてください!」とお願いしてバックネット裏に座り、「ピッチャー、第1球投げました! ストライク!」とブツブツ声に出して練習するんです。

 OBの方が大勢見てらっしゃるので、私が「カーブ、ストライク!」と言うと「今のはストレートやで」とかみんなが教えてくださった(笑)。そんなふうに練習して実況放送に臨みました。

 甲子園では試合途中に入るアルプススタンドからの中継も春夏通じてやりました。

「三塁側の武内さん!」と振られると「はい! こちら○○高校です。応援団も頑張ってます!」と話す、お馴染みの中継です。地域の局の状況にもよりますが、若いアナウンサーは甲子園でのリポートをたいてい経験しますね。

 夏は地元高校と一緒に行くので、チームが勝ち進むとずっと甲子園にいるのですが、私が中継担当で同行するといつも負けてしまって……。

 春の選抜では地元の高校についていくわけではなく、全国から呼ばれた若いアナウンサー数人が各自複数の高校を担当してリポートしていました。

 担当した高校が負けてしまうと最後に「負けコメント」を言うんです。選手がアルプススタンドに挨拶に来た時に「惜しくも負けた○○高校、本当に死力を尽くして頑張りました!」と話すあのコメントです。

 選手へのねぎらいの言葉でもあるのですが、私が担当した高校はあまり勝った記憶がなくて……。負けるたびにどんなコメントで選手の頑張りに報いようかと、ゲームセットからの短時間で何を伝えるか必死で考えました。

 やがて「武内の負けコメントはいい」と褒められ、私は「負けコメの女王」と呼ばれるように(笑)。微妙な呼ばれ方ですが、アナウンサーとしてはこの「負け」に鍛えられました。

 ただアルプススタンドで即座に考えたコメントがうまいと言われるのはうれしかったのですが、そのうち愛媛の球児たちからは「あのお姉さんが担当になると負ける」と言われたりして、私としては「えーっ!」とつらかったです(笑)。

 失敗が多かった松山局での新人アナ時代を経て大阪、東京へと移るお話は次回から。

(武内陶子/フリーアナウンサー 構成=松野大介)