俳優・中村優子、0歳の娘に叩きこまれた「人生はアドリブの連続」 仕事観にも変化「子どもとの時間を割いてまで、この作品をやりたいのか?」

AI要約

中村優子さんは、映画『鉄男 THE BULLET MAN』で重要な役どころを演じ、塚本晋也監督との信頼関係を築いた。

戦争映画『野火』に出演した経験から、自らの家族の過去を振り返り、戦争の悲劇を強く意識するようになった。

中村さんは、塚本組との仕事を通じて、戦争反対のメッセージを表現する貴重な経験を得ている。

俳優・中村優子、0歳の娘に叩きこまれた「人生はアドリブの連続」 仕事観にも変化「子どもとの時間を割いてまで、この作品をやりたいのか?」

初主演映画『火垂』(河瀬直美監督)でブエノスアイレス国際映画祭主演女優賞を受賞し、映画『クヒオ大佐』(吉田大八監督)では、銀座のクラブに素性を隠して約1カ月間体験入店し、最終的には指名を受けるまでになった中村優子(なかむら・ゆうこ)さん。

徹底した役作りで知られ、『鉄男 THE BULLET MAN』(塚本晋也監督)、『ユンヒへ』(イム・デヒョン監督)、『燕は戻ってこない』(NHK)などに出演。

2010年、映画『鉄男 THE BULLET MAN』に出演。この作品は、世界中にカルト的ファンが多い塚本晋也監督が、自身の代表作『鉄男』(1989年)をまったく新しいストーリーで再構築したもの。

東京で日本人の妻と息子と3人で暮らすアンソニーは、ある日突然、目の前で何者かに息子を殺害されてしまう。そして息子を亡くした怒りの感情を抑えられなくなったアンソニーのからだに変化が生じ、徐々に鋼鉄の塊になっていく…という展開。

中村さんは、アンソニーの亡くなった母親で、夫とともに「鉄男プロジェクト」に取り組んでいた研究者・美津枝役を演じた。

――撮影はいかがでした?

「塚本さん(監督)がスタッフを募り、世界中からボランティアや、『塚本組に携わりたい!』という方々が集まったんです。映画の現場は初めてという方や、若いスタッフも多く、手探りな部分もありましたが、少数精鋭の素晴らしいチームで刺激のある現場でした。

それでまた塚本さんのお人柄も本当にステキなんですよね。撮影は結構タイトなスケジュールだったんですが、あるとき貴重な撮影休みが1日あって。

その休み明け、現場にディズニーランドのお土産がさりげなく置いてあったんです。スタッフさんづてに、塚本さんがご家族と行かれていたことを知りました。過酷なスケジュールのなかでもご家族との時間を大切にされていて。

この映画は、家族の物語でもありますから。監督ご自身の中に映画の芯を垣間見ることができたようで、モチベーションも信頼もさらに高まりました」

――中村さんは、塚本監督と映画『野火』でもご一緒されていますね。第二次世界大戦後、フィリピン・レイテ島から帰還した主人公・田村一等兵(塚本晋也)の妻役でした。

「はい。『野火』も私の中ではすごく重要な作品です。というのは、自分はきっと戦争映画に出ることはないだろうと思っていたんです。

実家にご先祖さまの写真が数枚飾ってあるんです。その中に、軍服を着た男性と、スーツを着た男性の写真が二枚、並んでいて。子どもの頃はそれが誰なのかほとんど気にしたことがなかったんですが、あるとき、その写真はどちらも同一人物で、戦死した私の祖父だと知ったんです。

スーツを着ているのは、戦争に行く前の姿で穏やかな表情をうかべているのですが、軍服を着た写真は顔から柔和さが消えてしまっていて、まったくの別人のようで…それがすごくショックだったんです。

戦争がなければ、妻とともに孫たちとも時間を過ごせたかもしれない。戦争が奪うものを、自分の身近に強く感じた瞬間でした。

だから戦争映画には軽々しく出ることはできないと思っていたんですが、『野火』のお話をいただいて、塚本さんの長年の思い、そして『今撮らないといけない』という強い意志を知って、これ以上ない反戦映画だなと。これは私の意思表示としても、ぜひ参加させてほしいと思いました」

――戦争から帰ってきた夫を見ている絶望的な表情が印象的でした。今のおじいさまに対する思いと重なりますね。戦争がなかったら…と。

「そうですね。その後もずっと、その先何世代をも蝕(むしば)んでいくのが戦争。塚本さんの言葉をお借りしますが、『劇中で内臓が出ていたりする描写がグロテスクだという声もありますけど、本当の戦争はこんなものじゃないですから』。

戦争をしてはいけない、というのは当たり前のことなのに、今でも起きているこの現実に危機感を覚えています。悔しいし苦しいです。だからこそ、塚本組の『野火』に参加させていただいたことを、心から感謝しています」