「コロナ禍デビューの約200組がほぼ全滅」 元『日プ』/『Re:Born』総指揮者、“K-POPアーティストの格差”に危機感

AI要約

『Re:Born』はK-POPボーイズグループたちを再起させるリアリティサバイバル番組であり、年間約100組がデビューしても成功するのはほんの一握りである現実を反映している。

番組の立ち上げはK-POPアーティストの格差に疑問を持ち、日本で認知度を上げる機会を提供するために始められた。新感覚の企画であり、優勝グループには“正式日本デビュー”という特典が与えられる。

日本デビューのメリットは、韓国市場が小さく、セカンドチャンスを求めるアーティストにとって日本が重要視されることから、『Re:Born』を通してその機会を提供することが目的である。

「コロナ禍デビューの約200組がほぼ全滅」 元『日プ』/『Re:Born』総指揮者、“K-POPアーティストの格差”に危機感

 世界で活躍するアーティストを多数輩出しているK-POPの世界では、年間約100組がデビューすると言われており、その中から成功を掴みとれるのはほんの一握りであるのが現実だ。韓国で一度デビューをしたものの、様々な理由から第一線で活躍を続けられなくなったK-POPボーイズグループたちを再起させようという、新感覚リアリティサバイバル番組『Re:Born』(スペースシャワーTV/ABEMA)が9月27日からスタートする。7組のボーイズグループたちのチーム対抗戦でありながら、K-POPの“ウラ側”にもフォーカスを当て、優勝グループには“正式日本デビュー”という特典が与えられるという、これまでのサバイバル番組とは一線を画す内容となっている。そこで番組立ち上げのきっかけから、この番組を通しての目標など、『Re:Born』の総指揮者であるジャン・ヒョクジン氏に話を聞いた。日本生活13年にわたる経験値や、これまでの知識を活かした戦略など、K-POPの様々な側面も垣間見える内容だ。(筧真帆)

ーーまずはジャン・ヒョクジンさんのご経歴についてお伺いできますか。

ジャン・ヒョクジン:日本の大学院を出て、2003年ごろからは劇団四季で5、6年ほど働いていました。ステージとは何の縁もない人間でしたが、劇団四季のグローバルチームに配属されて、2006年に『ライオンキング』を1年間担当しました。韓国で『ライオンキング』を上演することが30代までの最大目標だったので、その目標が達成できた時点でもう未練がなかったんですね。ちょうどそのころに韓国系の企業から声をかけていただき、CJ ENMに2008年から昨年まで在籍していました。

ーー日本語が非常に堪能ですが、どのタイミングで習得されたのですか?

ジャン・ヒョクジン:私は昭和46年(1971年)の生まれで、中学、高校時代、日本カルチャーはアジアで強い影響力があり、当時韓国にいた私も日本のアニメを観たり、松田聖子さんや中森明菜さんの歌が大好きでよく聴いていました。大学在学中に将来に向けて何かを身に付けたいと思ったとき、文化的にも興味があった日本語を習得しようと決心して、経営学の専攻に加えて、3年生から日本語を副専攻しました。韓国の大学を卒業したあとに国費留学生として日本の大学院へ留学し、その後、劇団四季へ入社しました。韓国に戻ってから、2012年にCJ ENMの日本駐在員として来日し、(日本での生活は)13年ほどになります。

ーーそれでは『Re:Born』についてお伺いします。現在韓国では、オーディション番組が飽和状態とも言える状況ですが、その中で『Re:Born』を始めたきっかけを教えてください。

ジャン・ヒョクジン:私自身、日本で長く事業をやってきた人間として、K-POPアーティストの格差に疑問を持っていました。あれだけアーティストがいるのに、日本で認知度を上げて活発に活動しているのは、大手事務所のグループしかいないように感じています。逆に言うと、あれだけたくさんデビューしたアーティストはどこに行くのだろうと。そこで知人にヒアリングをしたところ、やはり大手所属ではない子たちは、ステージに立つ機会がなかなかもらえない。稀に奇跡のように成功するグループもいますが、多くは途中で消えてしまいます。またK-POPアーティストは、早ければ小学生から練習生を始めているので、当然ながら大学進学もできない。そういった意味で、アイドルをやめてしまうと本当に生計を立てることすら困る状況になるんです。新人を売り出す場合、普通はプロモーション予算をかけて大きく宣伝をしますが、韓国ではその成功率は5%と言われていてなかなか難しい。ならば、私の過去の経験を活かして、皆さんが熱狂するような魅力ある番組を作れば、(予算をかけて)プロモーションをするよりも認知度を上げられるのではと考えました。その手段として『Re:Born』が生まれたのです。つまり『Re:Born』の制作が目的ではなく、『Re:Born』を通して恵まれなかったアーティストたちが日本である程度の認知度を獲得して、ひとり歩きできるような土台を作ることが目標です。

ーーいつごろにこの企画が立ち上がったのでしょうか。

ジャン・ヒョクジン:2022年12月ごろに(構想を)話し始めましたが、実現までにかなり時間がかかりました。コロナ禍にデビューしたK-POPグループ約200組がほぼ全滅してしまったため、そのメンバーたちを復活させたいという思いがあって企画を始めました。しかし実現まで時間がかかってしまったこともあり、必ずしもコロナ禍のデビュー組だけではなく、次世代も含めて、チャンスがある子たちに幅広く機会を与えた方がいいんじゃないかなというところで、今回のラインナップとなりました。

ーー優勝特典が“正式日本デビュー”というところが新鮮です。K-POPアーティストにとって、日本デビューのメリットや魅力はどのようなところにあると考えていますか。

ジャン・ヒョクジン:まずひとつ言えるのは、韓国の音楽市場は小さいです。もちろんK-POPはグローバルでも需要がありますが、韓国市場だけでみると、日本の6分の1ぐらいなんですね。その中でさまざまなアーティストや事務所が競争し合うので、韓国国内だけだと十分な収益が得られないのが現状です。そのため、大手事務所も含めて、どのアーティストもいずれは海外を目指す必要があり、その第一歩が日本であることがほとんどです。その前提のうえで、『Re:Born』を通じて日本デビューの機会を提供することで、そこに至るまでの期間を短縮させるというメリットがあります。大手事務所の場合、日本デビューする前から日本のレーベルやマネジメントなどパートナーがいることがほとんどで、韓国でデビューをしたらすぐに海外へ行ける体制が組まれていて、海外デビューをするための検証プロセスがほとんど必要ありません。しかしその一方で、中小規模の事務所の場合、日本でのパートナーに会うために、デビューシングルが何十万枚売れたとか、MVの再生回数、ファンクラブ会員数などの数字をもとに、自力でその能力を検証しないといけません。これにはかなりの時間と予算が掛かってしまうため、『Re:Born』を通して、この検証期間を限りなく短縮しようというのが目的のひとつです。

ーーこうした企画は、ボーイズもガールズも含めて、アイドルシーンに一石を投じるのではないでしょうか。

ジャン・ヒョクジン:そうなればありがたいですね。日本と韓国で仕事している人間としても、大手事務所以外のグループも、自分たちの実力で愛される機会をもらえるドアを作っておきたいという思いが大きいです。今回うまくいった場合、今後大手事務所以外のグループは、この入口から日本デビューができるというひとつの選択肢として、いずれブランド価値がつけばよいなと思っています。