【漫画家に聞く】理不尽な暴力を打ち倒すのは、知恵と善意? SNS漫画『海賊の娘』が描く先人へのリスペクト

AI要約

海賊の船長を父親に持つ少女・テア。父親に会える日を待ちつつ、海を眺める日々を送る中、自らの身の回りの安全を考え始める。

飲食店で船乗りとの出会いを通じて、海賊の恐ろしさを知ったテア。海賊のいなくなる方法を模索する姿が描かれる。

制作者が『海賊の娘』を制作するきっかけやテーマ選定の理由、先人へのリスペクトなど、作品に込められた思いが明かされる。

【漫画家に聞く】理不尽な暴力を打ち倒すのは、知恵と善意? SNS漫画『海賊の娘』が描く先人へのリスペクト

 海賊の船長を父親に持つ少女・テア。現在は父親の部下・ロメと2人暮らししているが、いつか父親に会える日を心待ちにしながら海を眺めていた。テアは飲食店に入ると、世界中の海を旅している船乗りと会って話し込む。そこでふと自分の父親が海賊であることをポロっと口にすると、店内の空気が一変。海賊の恐ろしさを知ったテアは、船長の娘でありながら“海賊がいなくなる方法”を考え始めて……。

 6月中旬、Xに投稿された『海賊の娘』は、理不尽な暴力に対して暴力ではなく知恵と善意で立ち上がる主人公たちの姿が心に残る物語だ。本作を手掛けたのは、マイペースで作品を制作していたなかで注目を集め、“漫画が人に届くことへの快楽”を覚えてモチベーションが上がったというカツターさん(@katsutaakun02)。「海賊」をテーマにした熱き物語がどのようにして生まれたのか、話を聞いた。(望月悠木)

■先人へのリスペクトが込められた作品

――なぜ『海賊の娘』を制作しようと思ったのですか?

カツター:2023年末ごろ、当時担当してもらっていた編集さんと漫画賞を目指して制作しました。編集さんからは「好きなものを描け」と言われており、かねてから描きたかった“血縁と後天的な縁の隔たり”について描こうと思い、原案を出すと「それで描いてみてください」と言われて取り掛かりました。

――結果はどうでしたか?

カツター:これまでのキャリアで一番良い賞をいただきました。ただ、残念ながらデビューには繋がりませんでした。今見返したら作画が特に未熟だなと反省しています。

――「“血縁と後天的な縁の隔たり”について描きたかった」とのことですが、なぜ海賊をメインテーマに選んだのですか?

カツター:「この2つの要素がより強く出る背景はなんだろう?」と考えたところ、まず最初に“現代の裏社会モノ”という発想が浮かびました。ただ、現代の裏社会を描くことはいろいろ難しいと考え、「もう少しフィクションやファンタジー要素の強いものはないだろうか?」「裏社会的な要素がありながらも読者が親しみを覚えられるものとは?」と考えを巡らせた結果、海賊に決めました。

――海賊による理不尽な暴力に対して、暴力に頼らずに経済状況・環境を是正することで対抗する展開にした経緯は?

カツター:私が大学生の時に社会人類学を学んでいました。社会人類学で出会う様々な実話は、ありふれたフィクションを遥かにしのぐ、不条理、やりきれなさ、悲しみ、痛みに溢れています。それと同時に、歴史に名前が残らない人達が、いかに様々な直面した困難に向き合ってきた軌跡も辿れます。そうした先人達の強さや信じる心に、私は深く尊敬しており、本作でも「そういった人類の営みへのリスペクトや祈りを込めよう」と思ったことが影響しています。

――確かに海賊と戦った人々へのリスペクトが伺えました。

カツター:ありがとうございます。ちなみに、港町の住人の思いやりや優しさも、“持つ者から持たない者への自己満足としての慈善事業”というわけではなく、「彼らもまた苦労し、迷惑し、悩み、考え、思い遣った結果である」ということが伝わるように意識しました。ただ、40ページくらいという縛りがあったため、「そこはもうちょっとこうしたかったな」というのも多く、今後の作品づくりで表現できるようにしていきたいです。

■担当編集者、大募集中!

――テアとロメはどのようにして誕生したのですか?

カツター:まずテアは、“イケイケな感じの親がいる女の子”みたいなイメージで作りました。可愛がられてるし、オシャレだし、言動にも自信が見えるけど、寂しさもある感じです。作者の偏見ですが。ロメは、「若い時はブイブイ言わせていたけど、あることをキッカケに更生して真っ当な父親になろうとしてる男性っていいよね」「年齢の割にちょっと昔のヤンキー感が捨て切れていないのかな?」という感じで性格や外見を作りました。

――バイオレンスなシーンもありましたが、どんなことに注意して描きましたか。

カツター:とにかく「ストーリー上で必要なバイオレンスな表現か?」ということを意識しました。画面外ではもっと悲惨なことが行われてるのかもしれないけど、必要以上にそれを漫画に映せばそれはスプラッタを楽しむ作品になってしまいます。読者をいたずらに怖がらせたり不快にさせたりする目的ではないので、「こういうことがあった」と想像させられる必要最低限のラインを意識して描いています。

――今後の予定などあれば教えてください。

カツター:年末にもう一作の読み切り漫画をSNSに公開する予定です! あと担当編集さんがいなくなってしまったため、どなたか拾ってくれないでしょうか!? あと商業デビューしたいです!アシスタントもさせてください! よろしくお願いします! 煩悩マシマシですみません!