湊あくあ、鈴谷アキ、成瀬鳴……人気VTuberの卒業が相次ぐ今こそ考えたい、“ピリオドの受け入れ方”

AI要約

2024年前半には、ホロライブ・にじさんじを含む複数のプロダクションから活動休止や卒業の発表が相次いでいる。

VTuberシーンは6~7年の発展を経て大きな変化を迎え、活動者たちには新たなプレッシャーやライフステージの変化が影響している。

活動を離れるタレントも増加しており、この変化がシーン全体に及んでいることがわかる。

湊あくあ、鈴谷アキ、成瀬鳴……人気VTuberの卒業が相次ぐ今こそ考えたい、“ピリオドの受け入れ方”

 2024年前半を過ぎ、ホロライブ・にじさんじの2大プロダクションを筆頭に、活動休止・卒業・契約解除の知らせが相次いでいる。

 にじさんじからは、勇気ちひろ、安土桃、鈴鹿詩子、鈴谷アキ、くわえてこの原稿を執筆中には成瀬鳴の卒業も発表され、5人が卒業する運びとなった。海外での活動でもリクサ・ディレンドラ、ぽむ れいんぱふ、セレン龍月、ヘックス・ヘイワイヤーが卒業・契約解除を発表した。

 ホロライブからは、夜空メル、緋崎ガンマ、湊あくあ、加えてときのそらの親友でありスタッフとしてホロライブの創業に携わった友人Aことえーちゃんも「退職」という道を選ぶことになった。

 昨年大きく運営体制が変化したななしいんくからは、虎城アンナ、獅子王クリス、紫水キキ、湖南みあと4人の卒業がアナウンスされた。個人VTuberからどっとライブへ所属し、長く活動してきたメリーミルクも同プロダクションからの卒業・活動終了を発表し、REALITY Studios株式会社が運営するVTuberプロダクション・FIRST STAGE PRODUCTIONからは、なんと1期生メンバーの4人が一斉に卒業するという驚きの一報もあった。

 ここまでは卒業や活動休止・終了についての話題をまとめたが、近年は事務所を離れるという報告もまた増えている。

 佃煮のりおがプロデュースするVTuber事務所・のりプロでは、2023年12月31日付けで白雪みしろ、愛宮みるく、姫咲ゆずる、猫瀬乃しんと長く活動していた面々が同事務所を離れ、個人VTuberとして活動することを発表。

 かつてキズナアイから分化して活動をスタートしたloveちゃんも、名義を「love=charmulet」へと変え、個人VTuberとして歩み始めた。今年だけでなく、もう少しさかのぼって振り返れば、数々のタレントが事務所を離れて独立していることに気が付くだろう。

 バーチャルYouTuber、あるいはVTuberシーンの勃発から約6~7年。ゆったりと、しかし着実に、変化の時が訪れつつあるのだ。

 2016年12月にキズナアイが活動をスタートさせて以降、加速度的に広がりを見せていったVTuber~バーチャルタレントのシーンは、いまや日本のインターネットシーンにおいても大きな存在感を発揮している。さらにはテレビやラジオといった、より大衆向けのカルチャーにも進出しはじめており、黎明期とはまったく異なるコアなファン層もシーンを支えるようになってすらいる。

 これに伴い、ホロライブ・にじさんじらが"タレント事務所"として成長を遂げ、ビジネス的な成功を収めたことに繋がった。もちろんこの成功は事務所だけでなく、所属タレントらにとっても大きな変化を及ぼすことになった。

 例えばにじさんじ元一期生の勇気ちひろ・鈴谷アキの2人は、もともとは一般向けの無料配信アプリのテストユーザー、公式声優「バーチャルライバー」という名目での面接を経てにじさんじプロジェクトに参画しており、現在でいうところのバーチャルYouTuberやYouTuberのような角度で募集されていなかった。この点については、後年何度となく元1期生メンバーによって話題に上がっている

 2018年8月に活動をスタートし、この度ホロライブを卒業した湊あくあも、自身がデビューしたキッカケについて「簡単に言うと、引っ込み思案な自分を変えたいと思って応募した」とかつて語っていた。大志を抱いていたわけではなく、あくまでも自己実現の手段のひとつとして、この活動を選んだのだ。

 つまるところ、いまのVTuber~バーチャルタレントには、黎明期から続く「だれしもがなれるもの」というハードルの低さはそのままではあるものの、シーンの最前線では「大きな期待に応えるもの」というゴールラインの高さ・厳しさがより強まり、市場の競争が一層激しくなった状態ともいえる。

 ここまでの変化を、環境・状況の変化と片付けるにはすこし簡単すぎる。長く活動しているタレント側からすれば、信頼したいスタッフ側、自分を見てくれるファン側ともに変容していくことになったからだ。時を経るごとに求められる要素が変わり、ヘタすれば数ヶ月前とは真逆の活動を求められもする。単なる時間経過だけでは片付けることのできない、ドラスティック(根本的)な変化の連続のなかでストレスを受け続けていたといっても過言ではない。

 もちろん、企業側としてもタレントのメンタルケアを含むマネジメントにはより一層気を遣っているだろうが、会社・個人にかかわらず大なり小なりの制作費をかけてさまざまなクリエイティブ、プロジェクトを立ち上げている以上、経済的なベネフィットを生み出さなくてはいけないという切実な問題も当然存在する。こうしたプレッシャーを受けながら、活動を通して応援するファンの期待や好奇の目にも応え続けなくてはいけない。

 この点においては、プラットフォームはちがえど、ライブ配信アプリなどで活動する面々にとっても同じはず。一言でまとめてしまえば、VTuberの芸能化・タレント化によって素朴な気持ち・キッカケでデビューした面々が、ドラスティックに変化した現況についていけなくなった、というのが今年の大きな変化だろう。

■変化はシーンだけでなく、ライフステージにも “VTuberのあとの人生”について

 もうひとつ、一歩踏み込んだ話題を持ち出すならば、活動者たちのライフステージが変化したという点も見過ごせない。

 かつての芸能界では「アイドル・俳優らが彼氏・彼女を作るなんてご法度!」といった風潮が当たり前のようにあった。現在ではこういった視点はかなり軟化され、アイドルや俳優が結婚すれば「おめでとう!」というコメントが当たり前のようにあがるようになってもいる。

 ひとつの例えとして結婚というワードを使ったが、それだけでなく家族との関係・自身の蓄え、あるいはキャリア形成といったところまでを踏まえたライフステージの変化もありうる。ホロライブで活動していた友人A(えーちゃん)は、今年3月に家族の事情でいったん配信や番組への出演をストップしていたが、6月にホロライブプロダクションを退職するまでに至っている。彼女の流れをみていれば、人生とはこうも変化するのかと思わずにはいられない。

 VTuber~バーチャルタレントらがこういった側面について直接的に言葉を重ねることは少ない。ファンの心情をおもんぱかって明言を避け「人生の転機として卒業・引退を決めた」と端的に告げる人たちもいるだろう。6~7年という時間の経過は、こういった変化をもたらすには十分すぎる期間でもあるのだ。

 ここで重要なのは、こうした変化を「我々がどのように受容するか」ということである。こうして整理して考えをめぐらせれば、活動継続に際するプレッシャー、ライフステージの変化、そして彼らが口を揃える「今までできなかった新しい挑戦」といった側面など、数々の活動休止の裏側にはさまざまなファクターが絡み合うことに気づく。

 応援・助力・支持・ケア……VTuberでなければ、それらは出来ないのだろうか、いやそんなことはないはず。彼ら/彼女らが“タレント”や“活動者”であることをやめても、その後の人生は続く。それぞれの新たな人生の門出を祝福し、幸せが訪れるよう願うことこそが、最大の見届け方だと筆者は思う。何より、こうした別れのあとの心構えが一つの論や捉え方として取り上げられるようになっていることも、VTuber~バーチャルタレントのシーンが成熟し、よりノンフィクションかつドキュメンタリー化したのだと感じられる。