【イベントレポート】パキスタン初の2D長編アニメは“究極の反戦映画”、制作の10年間は「手探りでした」

AI要約

パキスタン出身の監督ウスマン・リアズが手掛けたアニメーション映画「ガラス職人」が、広島の映画祭で上映される。

10年の歳月をかけて制作された作品で、パキスタン初の2D長編アニメーション作品として注目を集める。

作品のテーマには、愛と試練、戦争と芸術の対比などが描かれており、観客投票でグランプリが決定される授賞式が明日行われる。

【イベントレポート】パキスタン初の2D長編アニメは“究極の反戦映画”、制作の10年間は「手探りでした」

広島・JMSアステールプラザで開催中の「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」にて、長編コンペティション部門に選出された「ガラス職人」が本日8月17日に上映され、パキスタン出身の監督ウスマン・リアズが登壇した。

「ガラス職人」は、パキスタン史上初となる2D長編のアニメーション作品。物語は、若きヴィンセントとその父トマスがガラス工房を営む町に、ある日軍隊の大佐と彼の娘であるバイオリニストのアリズがやって来ることから展開される。戦争が差し迫る中、揺れ動く父と息子の関係や、ヴィンセントとアリズの間に芽生えた愛と試練が描かれる。

リアズは「日本のアニメーションの影響をものすごく受けていて、今日はこの場で上映していただけて光栄です」と挨拶。制作に10年の歳月がかかったことについて、本映画祭のアーティスティック・ディレクターを務める山村浩二が「その情熱はどこからきたのでしょうか?」と問うと、リアズは「なぜパキスタンでは(手書きの長編アニメーションを)誰もやらないのだろう?と思って自分で作り始めました。最初から10年かかるとわかっていたら、そこまで勢いよくできていなかったと思います」とはにかみつつ答えた。

パキスタン初の手描きアニメーションスタジオ、マノ・アニメーション・スタジオの共同設立者でもあるリアズ。彼は独自に制作環境を切り開いた苦労を「とっても難しいですね!」とおちゃめに日本語で表現し、「すべて逆算、逆算で『こうやるのか』と作り方から考えていくような状況でした。映画作りに必要なインフラみたいなものも全然なかったので、手探りでしたね」と述懐する。絵コンテの作成には17カ月を要したと言うが、リアズは「この作品を作るうえで絶対に必要なプロセスだった。アニメーション作りの技術が浸透していないので、一緒に作ってくれる人に『レイヤーはこう分けたい』『こういうカメラワークにしたい』と伝えるためにも細かく絵コンテにしていきました」と語った。

本作の舞台をガラス工房にしたことについても言及。リアズは「16歳のときにイタリアでガラス工房を見て本当に感動して。当時は自分で作るとは思っていませんでしたが『ガラス職人が主人公の映画がもっとあってもよさそうなのにな』と考えていました」と回想する。そして「長編作品の題材を考えていたときに、別に構想していた壮大なテーマよりもシンプルなほうがいいのではと思い、我々が触れる中でもっとも繊細なものの1つであるガラスの職人が、戦争という圧倒的な暴力に触れるとどうなるのか。対比としても有効だと思いこの物語を思いつきました」と伝えた。

山村は「この作品は、戦争や愛国心といったものが、自由や芸術を押し潰してしまうという大きなコントラストを持っています。その対比を作ろうと思ったのはなぜですか?」と質問。リアズは「僕たち世代のパキスタン人にとっては、9.11がとても大きな事件。近隣諸国の様子がガラッと変わってしまい、常に『この先どうなるんだろう』という心配がどこかにある状態で過ごしてきました」と吐露する。続けて「大人になって、その状態は物語として語られるべきではないかと考えたんです。究極の反戦映画だと思って作っていますし、誰が勝者であっても戦争は何も生みません」と力強く訴えた。

なおHASの長編コンペティション部門では審査員を設定せず、観客の投票でグランプリを決定する。授賞式は明日8月18日に開催。