『虎に翼』多様なパートナーシップが示す「典型を作らない」強い意志。優三に象徴される“尊重”と”応援”こそ、このドラマの精神だ【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー19•20週】

AI要約

寅子は結婚を必要とせず、幸せの終着点ではなく選択肢の一つであると考えている。

『虎に翼』では家族の形を意図的に典型から逸脱させ、異なる共同体を描いている。

血のつながりではなく、共に過ごした時間や愛が家族を家族たらしめることを示唆している。

『虎に翼』多様なパートナーシップが示す「典型を作らない」強い意志。優三に象徴される“尊重”と”応援”こそ、このドラマの精神だ【横川良明の『虎に翼』隔週レビュー19•20週】

「結婚は幸せの終着点ではなくて、選択肢の一つに過ぎないわ」

航一(岡田将生)との今後について聞かれ、そう答えた寅子(伊藤沙莉)。「永遠を誓わない愛」として交際を始めた寅子にとって、結婚は必要なものではなかった。

しかし、航一自身は家族を紹介したり、一緒に住むことを提案したり、寅子との関係を結婚に向けて前進させたがっているのは明白です。思えば、第1週のお見合いの頃からずっと結婚について懐疑的だった寅子。はたして寅子の結婚観はどう更新されるのか、あるいはされないのか。そんなことを考えつつ、『虎に翼』が描く多様な形のパートナーシップについて今回は語っていきます。

 

『虎に翼』では、おそらくかなり意図的に家族の形について「典型」をつくらないようにしています。

たとえば現在の猪爪家(佐田家)は、寅子と優未(毎田暖乃)、花江(森田望智)と直人(青山凌大)と直治(今井悠貴)、そしてすでに自立した社会人である直明(三山凌輝)の事実上3世帯が同居している状態。精神的な支柱であったはる(石田ゆり子)がこの世を去り、長兄・直道(上川周作)も他界している今、寅子母娘と、花江母子、直明が今も一つ屋根の下で一緒に暮らしているのは、現代の感覚で見ると不思議。もしかしたら当時はわりとあったケースなのかもしれませんが、家族同然の道男(和田庵)を配置している点も含め、「両親と実子」というわかりやすい家族の「典型」とは逸脱した共同体を目指して、こうした家族構成にしているように見えます。

枠からはみ出た家族の形がマイナスかというと決してそんなことはありません。母代わりとして面倒を見てくれた花江への恩返しの思いから、結婚した後も花江一家と同居したいと申し出る直明。花江を大事にしてくれる叔父の気持ちに感謝しつつ、花江の長男である直人はお母さんの面倒を見るのは父から託された自分たちの役目だと譲りません。

この言い争いは、かつての梅子(平岩紙)の遺産相続問題とは対照的でした。お腹を痛めて産んでもらったにもかかわらず、息子たちは母の面倒を見るどころか、母の遺産分まで我がものにしようとする。あの身勝手な言い分と比べると、血のつながりのない義姉とこれからも一緒に暮らしたいという直明の優しさは少し変わっているけれど立派。家族を家族たらしめるのは、血のつながりではない。過ごした時間と、双方の愛なんだと実感します。