仲村トオル、同じ監督と15作でタッグを組む意味「味が悪くなかったから呼んでくれた」

AI要約

俳優の仲村トオルが最新刑事ドラマ『密告はうたう2』に出演し、内片輝監督とのタッグの意味について語る。

仲村はコミカルな役からシリアスな役まで幅広く演じ、内片監督との信頼関係を築いている。

本作は警察内部を捜査する異色のサスペンスであり、リアリティのある怖い話を描いている。

仲村トオル、同じ監督と15作でタッグを組む意味「味が悪くなかったから呼んでくれた」

 俳優の仲村トオル(58)がWOWOW『連続ドラマW 密告はうたう2 警視庁監察ファイル』(8月11日午後10時、WOWOWプライム・WOWOW4K、初回無料放送)に出演している。メイン監督の内片輝氏とは映像15作目のタッグ。仲村にとって、同じ監督と組む意味とは?(取材・文=平辻哲也)

 

 7月期のTOKYO MXの15分のグルメドラマ『飯を喰らひて華と告ぐ』の店主役が好評の仲村。中華料理店なのに、リクエストに応じて、何でもうまく料理し、客の悩みを勝手におもんばかって、人生訓っぽいことを言うが、大抵は的外れで、微妙……。気楽に見られて、笑えて、元気がもらえるドラマになっている。

「家で料理することもありますし、撮影に当たっては中華鍋を振ったり、食材をトントンと早く切る練習もしました。どんなドラマでも、俳優がやることは同じで、その役に必要な準備をする。現場にいるときは、今、何を求められて、自分が何をやらないといけないのかを考えています」

 そんなコミカルな役から一転、8月からは刑事サスペンスでシリアスな演技を見せる。

 最新ドラマ『密告はうたう2』は伊兼源太郎氏のミステリーを原作に、警視庁職員の不正を取り締まる警視庁警務部人事一課の内部捜査を描く。続編では特殊詐欺捜査の情報漏洩をきっかけに、組織の巨大な陰謀が明らかになっていく……。

 メイン監督の内片氏はジョージ・ルーカスらが学んだ南カリフォルニア大テレビ映画学科に留学した経験を持ち、朝日放送時代はプロデューサー、ディレクターとして活躍。ハリウッド映画『ラスト サムライ』『SAYURI』の現場にも参加。近作にはHulu『十角館の殺人』などがある。仲村は『刑事殺し』シリーズ、『アナザーフェイス』シリーズ、WOWOW『コールドケース ~真実の扉~』『孤高のメス』などでタッグを組んだ。

「また呼んでもらったということは、その味が悪くなかったということ。どんな商売でも同じだと思いますが、うれしいことです。内片監督も『パート2は楽ですね。改めて言わなきゃいけないことが少ない』とおっしゃっていましたが、確かにそうだと思いますし、僕にしてみると、かなりの本数をご一緒してきたので、作品についての余計な会話はしなくていい分、作品以外の余計な話をする関係になりました」

 出会いは20年近く前、テレビ朝日の土曜ワイド劇場だった。

「最初にご一緒したときから、さらに伸びていく雰囲気を感じる人でした。何度か激論に近い状態になったこともありますが、今や最も信頼できる監督の1人です。撮影の技術、演出法、現場の雰囲気の作り方、撮影の進め方を含め、デリケートに考えてくれる監督です」

 ドラマで演じるのは、松岡昌宏演じる主人公・佐良正輝の上司、能馬慶一郎。表情一つ変えず容赦なく身内の不正を暴くことから、「能面の能馬」と恐れられる公安出身のエリートだ。そのミステリアスなキャラクターも、前作(21年8月放送)のときに監督に作ってもらったのだという。

「メガネをかける設定、前髪を降ろして表情が見える部分を減らすなどは監督のアイデア。スーツもピッタリに採寸して用意してくださったので、形から役に入ることができました。前作は6話ですが、僕の出番は3日で撮ったんです。タイトなスケジュールながら撮り切れたのは、監督のおかげ。脚本に書かれていた通りセリフを言うことで、結果的に何を考えているのか分からない能馬という人物ができあがりました」

 コミカルな役からシリアスな役まで幅広く演じる仲村だが、能馬は最もクールな役がらといえるかもしれない。自身との共通点はあるのだろうか。

「パート1の終盤、能馬が、『自分たちは警察内で市民の安全を守る最後の砦だ』と言います。俳優はそこまでの社会的な使命感を持つような仕事ではないですが、役を演じるときは、その使命を果たそうくらいの意識はあったりします。あえて言えば、そこぐらいですかね」

 これまでの数多くの刑事ドラマをやってきたが、今回は警察内部を捜査する異色のサスペンス。製作発表時に「こんなリアリティーのある怖い話をドラマにするのは怖いな……という“二重の怖れ”があった」とコメントしていたが、その真意は何か。

「僕は、ある未解決事件の真相はこれだったんじゃないかと、物語の中にリアリティーを感じてしまったんです。脚本を読んでも怖かったし、これをドラマにして世に放っても大丈夫か、という意味です」

 実はあまり怖いのは得意ではないようだ。

「僕は絶叫マシーンにも乗らないですし、ホラー映画もほぼ全く見ない。なぜ、わざわざ時間とお金を費やして怖い思いをするんだと思ってしまうんです。もちろん、20代のころは撮影で結構な高さから飛び降るアクションもしていましたので、必要に迫られれば、求められればというところはありますが、わざわざ高い鉄橋を渡るようなことはしないです。この橋はちゃんと大丈夫なように設計され、メンテナンスされているのか? と疑ってしまう。よく言うんですが、一番怖いのは、お化けや幽霊じゃなく生きている人間だと思うので」

『密告はうたう2』は、その人間の恐ろしさを浮き彫りにし、一瞬たりとも気が抜けない重厚なドラマに仕上がっている。完成作はどのように見たのか。

「予想通りに緊張感と重みのある作品になったなと思いましたし、予想以上にそれぞれの登場人物が怪しく描かれていると思いました。今は視聴者の多くが忙しい生活を送り、タイムパフォーマンスを気にしているので、『ドラマのためにアナタの1時間をください』というのは難しくなってきていると思います。実際、僕自身も、YouTubeで格闘技を見るときは1.25倍速にするときもありますから。逆に言うと、僕らはファーストシーンからラストまで目が離せない、早送りできないクオリティーの作品を作っていかねばならないと思っています」と言葉に力を込めた。

□仲村トオル(なかむら・とおる)1965年9月5日、東京都出身。85年、映画『ビー・バップ・ハイスクール』でデビュー。86年から38年間に渡り制作された『あぶない刑事』シリーズ全作に出演したほか、『チーム・バチスタ』シリーズ、『家売るオンナ』シリーズなど数々の映像作品に出演。90年代後半より海外の作品にも参加。2004年、韓国映画『ロスト・メモリーズ』では第39回大鐘賞映画祭最優秀男優助演賞を受賞。中仏合作映画『パープル・バタフライ』(05)は第62回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品作。2000年代より演劇のキャリアも重ね、声の魅力を活かし、ナレーション番組などでも活躍している。

ヘアメイク:宮本盛満

スタイリング:中川原寛(CaNN)