板尾創路『ダウンタウンのごっつええ感じ』秘話「先輩・後輩」か「ライバル」か 

AI要約

板尾創路が『ダウンタウンのごっつええ感じ』での経験について振り返る。

当時の若手芸人たちとの交流や番組の自由度の高さに感謝の思いを述べる。

松本人志の信頼と番組作りの特異性について考察する。

板尾創路『ダウンタウンのごっつええ感じ』秘話「先輩・後輩」か「ライバル」か 

 気がつけばいつの間にか訪れていた人生の分岐点。「あのときああしておけば」「もしも過去に戻れたら」――? かつての分かれ道を振り返り、板尾創路がいま思うこと。(第8回)

『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)で印象に残っているコントは「こづれ狼」でしょうか。拝一刀役の東野幸治くんの呼びかけに大吾郎役の松本人志さんが何を叫ぶか、それだけのコントです。だけど、「こづれ狼」は毎回面白い。

 松本さんが何をするのか、僕らは本番までわかりません。松本さんと東野くんの間で決めて、僕らはオチに向かって芝居をしっかり作っていくんです。ベースがしっかりしていないと、笑いが生まれませんから。

『ごっつええ感じ』が放送されていた頃、ダウンタウンさんに対して、僕は先輩という感覚は薄くて。もちろん師匠でもありません。強いて言えば、ダウンタウンさんのことをライバルだと思っていたんです。

 当時の若手芸人の中で、ダウンタウンさんの才能は群を抜いていて。特に、松本さんのセンスは一線を画していました。だからといって、松本さんが決められた通りに動くような芸人は、『ごっつええ感じ』のレギュラーとして求められていなかったと思うんです。

 松本さんは僕たちを1人の芸人として認めていたから、レギュラーメンバーとして起用したのであって、決して「一緒に遊んだり、飯を食ったりして仲が良いから」という理由ではなかったはず。

 実際、僕らに任されている部分は大きくて。松本さんからアドバイスをもらうこともなかったし、空振りしたとしても怒られることはなかったんです。与えられた役に関しては、自己責任で演じていました。本当にヤバいとき、成立するようにフォローしてくださることはありましたけどね。

 浜田雅功さんは誰よりも俯瞰していました。僕らが煮詰めたコントにポンと入ってくるんですけど、コントの中身しか見ていない僕らと違って、浜田さんは全体を見て流れを作ってくださるんです。僕らのアドリブを全部受けて本筋に戻して、世に出せる形にするのが浜田さんでした。

 僕らは伸び伸びとやらせていただいたけど、番組全体のことまで考えていたダウンタウンさんは大変だったと思います。それでも、コントの中ではダウンタウンさんと対等な関係だったんです。

 もちろん、今田耕司くんや木村祐一くん、東野くんといったレギュラーメンバーに対しても「より面白いことを言いたい」という意識がありました。  

 それは基本ですから。ほんこんさんとはコンビの130Rで番組に出ている感覚はなくて、個々で勝負していました。

 彼らに助けてもらうことも、アイデアをもらうこともあったけど、そこはお互い様でいい関係だったと思います。キャラが違くてかぶることもないから、それぞれにスポットが当たっていたんじゃないでしょうか。

 YOUさんや篠原涼子さんといった女性レギュラー陣は芸人ではなく、ミュージシャンや女優でしたが、笑いのために全力でぶつかってました。いまだったら問題になるようなことばかりやらされていたけど(笑)、彼女たちはあの空間が好きでいてくれたんだと思います。

『ごっつええ感じ』で、現在はできないことをたくさんやらせてもらって、当時のスタッフの方たちには感謝してます。あれから偉くなった人もいますが、僕は当時のスタッフに戦友のような意識があるんです。

 スタッフ側も作っていて楽しかったんじゃないかと思います。いまのバラエティ番組は画一的に感じることがありますが、当時の番組は自由度が高かったんです。ダウンタウンさん、とんねるずさん、ウッチャンナンチャンさん、それぞれが持っている冠番組の色の違いが鮮明で、自然と競い合う形になっていました。

 とんねるずさんやウッチャンナンチャンさんの番組に「出てみたい」と思ったことはないけど、「どうやって作っているんだろう」という興味はあって。 

 ダウンタウンさんの番組の作り方は特殊だったので気になりました。ダウンタウンさん以外の番組に出ると、本番までに何をするか決めなきゃいけないんです。僕はそこに違和感がありました。「ダウンタウンさんの番組みたいに本番で決めればええやん」と思っていたんです。でも、「本番までに決めなきゃいけない」が普通なんですよね。演者だけでやっていればいいけど、そうじゃないですから。

 なぜダウンタウンさんの番組だけは「本番で決める」ことが許されていたかといえば、松本さんに対する絶大な信頼感があって、演者とスタッフが敬意を持っていたからでしょう。松本さんにとってベストな方法で番組を作ることが最優先事項だったんです。

取材・文/大貫真之介 撮影/川しまゆうこ

板尾創路(いたお いつじ)。1963年7月18日生まれ、大阪府出身。NSC大阪校4期生。1986年にほんこんと蔵野・板尾(現130R)結成。芸人としてはもちろん、俳優・映画監督としても幅広く活躍している。

大貫眞之介