幸四郎、團十郎らが大活躍! 宙乗りほか「夏芝居」の醍醐味が満載【『七月大歌舞伎』開幕レポート】

AI要約

江戸時代の歌舞伎には、夏の間に上演される「夏芝居」という習わしがあり、現代でもエンタメ要素満載の演目が人気です。

東銀座の歌舞伎座では、市川團十郎と松本幸四郎が主演する通し狂言が上演され、客席を魅了しています。

昼の部は『星合世十三團 成田千本桜』が上演され、團十郎が早替りを披露。ストーリーは義経千本桜を下敷きにしています。

幸四郎、團十郎らが大活躍! 宙乗りほか「夏芝居」の醍醐味が満載【『七月大歌舞伎』開幕レポート】

江戸時代の歌舞伎には、暑さ厳しい夏の間は若手の俳優を中心に、肩の力を抜いて楽しめる演目を上演する「夏芝居」という習わしがあった。現代では、歌舞伎ならではの魅力を味わわせてくれる実力派から躍動感あふれる若手までが一体となった、エンタメ要素たっぷりの演目が上演される傾向が。毎年この季節を楽しみにしている歌舞伎ファンも多いほどだ。

7月1日に幕を開けた東京・東銀座の歌舞伎座でも、昼の部は市川團十郎、夜の部は松本幸四郎を主演として、早替りや宙乗り、本水(本物の水)を使った「通し狂言」が上演中。客席を大いに沸かせている。

ちなみに「通し狂言」とは、物語の初めから最後まで通して上演する作品のこと。江戸時代に朝から夕まで1日かけて上演していた「通し狂言」から、様々な作品の名場面を抜き出して上演する「見取り(みどり)狂言」が今は一般的に。それだけに、今は珍しくなった「通し狂言」は歌舞伎ファンにとって貴重で、初めて歌舞伎を観る観客にとってもストーリーが分かりやすいと好評だ。今回の“通し狂言”は名場面がギュッと詰め込まれており、冒頭から終盤まで見逃せない展開となっている。

まず昼の部(11時開演)は、通し狂言『星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん) 成田千本桜』。名作『義経千本桜』を下敷きにしたストーリーで、当代の十三代目市川團十郎が十三役もの早替りを披露するという内容が込められた洒落っ気あふれるタイトルだ。

物語は平安時代、壇ノ浦の戦いで全滅したはずの平家の武士たちが、実は生きていたというところから始まる。『義経千本桜』の芯にいるのは、もちろん源義経。さらに物語の主軸として活躍するのは「平知盛」「いがみの権太」「佐藤忠信実は源九郎狐」というのも、歌舞伎好きには知られているところ。

ただ今回は團十郎が次々と早替りをするため、「ちょっと混乱してしまいそう……」という歌舞伎ビギナー向けに平家側の登場人物を整理すると、吉野山の僧侶・横川覚範を討ち、その身に成り代わって平家再興の機を狙うのが、能登守教経(平教経)。町人の銀平に身をやつし、船問屋で幼い安徳帝を隠し見守るのは、新中納言知盛(平知盛)だ。そして釣瓶鮨屋の奉公人・弥助となっている三位中将維盛(平維盛)。この3人を押さえておけば、スムーズに物語を追えるはずだ。

さらに、鎌倉方の武士・川越太郎と、源義経の正室である卿の君、または鮨屋弥左衛門とその息子のいがみの権太など、團十郎が同じ場面で絡み合う2役を早替りで演じるところでは、客席からどよめきが。武士や町人などの身分の違いや、年齢、性別まで巧みに演じ分けるほか、「佐藤忠信実は源九郎狐」の役ではユニークな「狐言葉」を使うなど、團十郎はまさに八面六臂の活躍ぶり。かえって観ているほうが混乱しそうだが、その点も團十郎自ら劇中口上にてストーリーと役柄を解説してくれるので、心配ご無用だ。

物語がスピーディに展開するなか、源義経の中村梅玉、静御前の中村雀右衛門、お柳実は典侍の局の中村魁春が舞台を引き締める。市川右團次と市川男女蔵の力強さ、市川青虎の存在感、中村児太郎と中村莟玉の柔らかさも印象に残った。

團十郎のサービス精神をとことん堪能できる本作。大詰めの最後には、さらに“お楽しみ”が残っているので、ぜひ最後までご注目を。