西野カナはなぜ“カリスマ”でい続けることができたのか?今回の復帰作にガッカリした理由

AI要約

西野カナが5年5ヶ月ぶりに復帰し、新曲「Eyes On You」のリリースとアリーナ公演を発表。

西野カナは歌姫系でもアーティスト系でもなく、独自のキャラクターを持つ。彼女のユニークさが光る。

曲の歌詞やサウンドが年齢に合わせて変化し、プロデュース能力が光る。西野カナの成長を感じさせる。

西野カナはなぜ“カリスマ”でい続けることができたのか?今回の復帰作にガッカリした理由

 2019年の結婚、2023年の第一子出産を経て、西野カナが約5年5ヶ月ぶりに復帰しました。

 6月25日に自身のXで、新曲「Eyes On You」のリリースと、11月13、14日の横浜アリーナ公演を発表。たちまちトレンド入り。カリスマシンガーの健在ぶりを見せつけました。

 カリスマというと色々なタイプがいます。安室奈美恵や浜崎あゆみのような歌姫系、そして宇多田ヒカルや椎名林檎のようなアーティスト系などが代表的な例です。

 しかしながら、西野カナはいずれのカテゴリーにも属しません。

 歌姫と呼ぶほど孤高の存在でもないし、才気ほとばしる作家性を発揮するわけでもない。むしろ、共感や親しみやすさを漂わせながら、唯一無二のキャラクターを確立している。そこに、西野カナのユニークさがあるのだと思います。

 たとえば、<会いたくて震える>という有名なパンチラインを生んだ「会いたくて 会いたくて」(2011年)。

 ネット上でネタにされていましたが、裏を返せば、それほど高い共感性のフレーズだったということ。半径5メートル内に人生のすべてをかけるJ-POP的恋愛ソングの表現における到達点と言えるキャッチーさがありました。卑小な感情を大げさに表現した「震える」は、発明だったのです。

 また特徴的だったのは、このようなフレーズを洋楽、とりわけブラックミュージックっぽく歌わなかった点にあります。民謡のようなパーッと視界がひらける明るさと真っ当な日本語の発音で朗々と歌い上げたところが新しかったのです。

“洋楽っぽさ”のクッションがないので、構えずに聞ける。それが過小評価される理由でもあるし、同時に、親しみやすさにもつながっている。その利点を突き詰めていったところに、西野カナの金脈があったのでしょう。

 それは、その後大きく花開きます。「Darling」(2014年)、「もしも運命の人がいるのなら」(2015年)、「トリセツ」(2015年)は三部作と呼ぶべき完成度を誇ります。

 特に“女性版「関白宣言」(さだまさし)”と言われた「トリセツ」の歌詞は、またしても話題を呼びました。

<一点物につき返品交換は受け付けません ご了承ください>

<爪がきれいとか小さな変化にも気づいてあげましょう>

<広い心と深い愛で全部受け止めて>

 このように、男性に対する要求を箇条書きのように羅列(られつ)していく作風に、幼稚だとの批判もありました。

 けれども、これは歌詞に西野カナの人格を投影しているのではなく、架空のシチュエーションを作って、さらにその中で最もわかりやすい文法をあえて使っているわけです。

 作家性を追求するよりも、曲を製品にみたてて、誰もがアクセスできるユニバーサルデザインとなるように仕上げているのです。

 そして注目すべきは、20代前半で書いた<会いたくて震える>から、ストーリーが前進している点です。発情期から愛情へときちんと移行している。サウンド面でも、ハイテンポでダンサブルだったものが、アコースティックで優しい響きになっている。

 こうした年齢ごとの変化、成長を正確にとらえる嗅覚は、女性ファッション誌を彷彿(ほうふつ)とさせます。西野カナのカリスマ性は、このプロデュース能力にあるのだと思います。