森田望智は『虎に翼』のもうひとりの主人公 寅子とは違う強さを持った花江の幸せを願って

AI要約

主人公の寅子は仕事に追われながらも手応えを感じ始めている。

家事をこなす花江が日々の変化に気付きつつ、我慢を続ける中で心にモヤモヤを抱えている。

花江は自分らしく家族を支えるために、そして寅子に物申すために今、新たな闘いを始めようとしている。

森田望智は『虎に翼』のもうひとりの主人公 寅子とは違う強さを持った花江の幸せを願って

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』の主人公・寅子(伊藤沙莉)は、仕事に追われる日々を過ごしているが、その分、手応えを感じ始めている。

 優三(仲野太賀)の夢であった「法律の本」の出版を曲がりなりにも叶えることができ、いつも対立しがちな家事部と少年部が同じ理想に立っていることを知り、両親が互いに親権を手放したがっている栄二(中本ユリス)から、彼の本心と頼れる人を聞き出すことができた。きっとより一層、仕事に邁進していこうと決意していることだろう。その一方で、猪爪・佐田家を内側から支えている花江(森田望智)はなんだかいつも辛そうだ。

 はる(石田ゆり子)が亡くなって以降、家のことはほとんど花江がこなしている。つまり、子どもたちの日々の変化にも気がついている。以前ならはる、寅子、花江の3人が夜のお裁縫の時間に最近のことをつらつら話していたので、その中で家族へのちょっとした愚痴や弱音、気になることを少し話すことができたかもしれない。しかし、寅子が忙しい今、そんなことはできない。ましてや、直明(三山凌輝)をはじめとした子どもたちの前では尚更そんなことは話せない。なのに、寅子の娘・優未(竹澤咲子)の表情は日に日に陰っていくばかり。胸の内にモヤモヤを溜め込んでいく花江のことを思うと、やるせなくなってしまう。

 寅子は家には何も問題がないと思っているのかもしれないが、このままの日々が続いていくとは思えない。なぜなら、花江はもともと我慢はしない性格だからだ。寅子が男性の多い法曹界で、啖呵を切って戦っているように、花江ももはや世間全体に浸透しすぎている「良き嫁」「良き母」のイメージにささやかながらずっと抗っている。

 花江は直道(上川周作)と結婚し、義両親である直言(岡部たかし)やはると一緒に同居していたが、次第にはるのちょっとした小言に耐えられなくなり険悪なムードになってしまう。もちろんはるが嫁いびりをしようとしていたわけではない。互いに「良き嫁」、「手本となる姑」であろうとした結果なのだろう。でも花江は「良き嫁」である努力を惜しまなかったが、そのために無理はしなかった。当時、女子部で学んでいた寅子やその友人たちと猪爪家で一緒にまんじゅうを作ったことをきっかけに、ぽろぽろと自分の本心をさらけ出し、直道の配慮によって別居することになった。その後、子が生まれ、また猪爪家で同居することになるがはるとの関係は改善している。

 はるが亡くなってから、花江は今まで2人でやっていた家事を1人でこなすように。花江はあっちでぱたぱた、こっちでぱたぱたと常に忙しそうになり、それに比例するように余裕がなくなっていった。この時の花江は「はるさんのように」「家を以前と同じように」と思い、「良き母」であろうとしていたのかもしれない。だけど、生活は長く続いていくがその中での無理は絶対に続かない。花江はそのことをよく知っている梅子(平岩紙)とひょんなことから再会し、背中を押され、家族に「手抜きをさせてください」と宣言。よく言われている「良き母」ではなく、自分らしく、猪爪家らしい母となっていった。花江には、自分の心に素直になる力と周りに配慮しつつも自分の思いを毅然と言える力があるのである。

 そんな花江だ。寂しい思いをしている優未を優しく包み込むか諭すかして寅子には心配をかけずに、仕事に生きてもらおう……なんて世間一般で言われるところの「家庭を守る良き人」のようなことはしないだろう。かつて、直言が亡くなる直前で寅子と直言の関係が険悪になった際、花江は父に冷たい態度を取ってしまう寅子を叱ったことがある。この時寅子にかけたのは、同じ境遇で夫を亡くした経験のある“親友”としての言葉だった。だが、7月8日から始まる第15週「女房は山の神百石の位?」の予告に登場した花江は、以前は、はるのものだった着物を着て登場している。優未に向き合ってこなかった寅子に、今度は家族の一員として物申そうとしている花江。寅子とは違う、“女性の戦い”に挑む花江から目が離せない1週間となりそうだ。