異色の新作オリジナルミュージカル『Bats in the Belfry』が開幕

AI要約

オリジナルの新作ミュージカル『Bats in the Belfry』のプレビュー公演が6月29日に幕を開けた。脚本・西森英行・中田真弘、音楽・天野由唯、演出・渡邉さつきによるこの作品は全編英語で繰り広げられ、物語は生きづらさを感じる者たちのリアルな問題を描いている。

キャスト陣の熱演と歌唱力が光る中、ヴァンパイアに救われる女性や親子の関係、若いカップルの恋愛など様々な要素が取り入れられ、個性豊かなキャラクターたちが魅力的に描かれている。

2001年から2021年までの時が流れながらも、キャラクターたちが少しずつ変化していく姿や、楽曲の多彩さ、キャスト陣のハーモニーなど、観客を引き込む要素が満載の作品だ。是非劇場でその魅力を堪能してみては。

異色の新作オリジナルミュージカル『Bats in the Belfry』が開幕

脚本を西森英行・中田真弘、音楽を天野由唯、演出を渡邉さつきが手がけるオリジナルの新作ミュージカル『Bats in the Belfry』のプレビュー公演が、6月29日に幕を開けた。「男」「女」「若い女」「若い男」の4名によって繰り広げられるミュージカルで、「男」をハン・ジサンと山田元、「女」をAKANE LIVと池田有希子がそれぞれWキャストで、「若い女」を井上花菜、「若い男」を石川新太が演じる。

全編英語で紡がれる物語で字幕はないが、劇場で用語やあらすじの説明が配布されるためご安心を。キャスト陣の熱演と歌唱力のおかげもあり、各キャラクターの個性やストーリーの面白さは掴めるだろうと感じた。観劇前にあらすじをチェックしてもいいし、一度素直に作品に触れたうえで説明を読むのもいいだろう。

物語はとある女性がヴァンパイアに命を救われることから始まる。……と書くと、ダークファンタジーだと思うかもしれない。確かにヴァンパイアとその配下があちこちにいる世界ではあるのだが、描かれているのは生きづらさを感じる者たちの物語であり、ある親子のリアルで切実な問題だ。

ハンと山田が演じる「男」は、「娘に会いたい」という思いに感銘を受けて死にかけている「女」を助けたヴァンパイア。女の暴走をとめるために奔走したり、時代に合わせて生活していたりと、人間味のあるキャラクターをそれぞれが異なる魅力を持って表現していた。

ハンは貫禄がありつつ表情や話し方におちゃめさがあり、どこか親しみやすさのあるヴァンパイアを好演。深みと艶のある歌声が、何世紀も生きてきた伯爵の道のりを思わせる。山田はより真面目な雰囲気で、「娘を矯正したい」という女の真意が判明したあとの困惑がひしひしと伝わるのが面白い。苦悩と優しさの滲む歌声によって物語に奥行きを与えている。

「女」を演じるAKANEと池田は、良くも悪くもエネルギッシュな母親を熱演。「男」に向かって娘がいかにトラブル体質か、どれだけ間違っているか語る姿や、娘に対する妨害が成功すると大喜びする様子は異様に映り、いわゆる「毒親」に見える。ただ、AKANEと池田があまりに表情豊かに演じ、パワフルに歌うため、圧倒されてどこか笑ってしまう。池田は、勢い任せで行動する手に負えない一面と時折見せる穏やかで優しい表情のギャップで、危ういが魅力的な「女」を描き出す。AKANEはとても無邪気に暴れ回り、コミカルでバイタリティ溢れるトラブルメーカーをチャーミング見せていた。

井上花菜が演じる「若い女」は、『2001年宇宙の旅』を観てNASAに手紙を送ろうとしたり、警備会社を設立するべくロッキーやジョン・マクレーンをスカウトしようとしたり。自分の興味に対して猪突猛進な様子を見ると、母の心配も少しは理解できる。だが、キラキラした瞳でアイデアを語る様子は愛らしく、見るものを惹きつける。

そんな彼女に寄り添う「若い男」を演じる石川新は、包み込むような温かさのある芝居でほっとさせてくれる。頼りない部分もあるが、彼女の不安や苦悩を和らげようと一生懸命な姿、彼女に向ける優しく愛情に満ちた表情が眩しい。

ふたりが微笑ましい姿を見せれば見せるほど、妨害しようとする「女」と、それを阻止する「男」のやり取りも魅力を増す。何千年も生きるヴァンパイアが人間に振り回される姿はもちろん、客席に向かって語り掛けるシーンなどもコミカルで、個性的な隣人たちの生活をそばで見ているような感覚になった。

個性あふれるキャラクター、掛け合いのテンポの良さに加えて、多彩な楽曲も見どころ。「男」が吸血鬼について語る曲や、「女」が自らの思いを吐き出すような力強くパワフルな曲、若いカップルのキラキラした愛情を描くポップな曲、お互いを思い合う気持ちが胸に迫る曲など、楽しくノれるものからじっくり聴かせるものまで幅広い。キャスト陣のハーモニーも美しく、例え完全に歌詞が理解できなくても伝わるものがあるはずだ。

作中では2001年から2021年までの時が流れ、若いふたりの生活がどんどん変化する中、「男」と「女」も少しずつだが確実に変わっていく。それぞれが抱える苦しみや事情も明らかになり、観ている側も受け取り方やそれぞれのキャラクターに抱く印象が変化していくのではないだろうかと感じた。

本作は6月29日(土) より7月21日(日) まで浅草九劇で上演される。魅力的なクリエイター陣と実力派キャスト陣による新たな挑戦を、ぜひ劇場で見届けてほしい。

取材・文・撮影:吉田沙奈

<公演情報>

Musical『Bats in the Belfry』

公演期間:2024年6月29日(土)~7月21日(日)

※6月29日(土) 及び6月30日(日) は公開舞台稽古

会場:浅草九劇