『虎に翼』武田梨奈が仕掛ける演技合戦 元山すみれの“堂々たる存在感”が大庭家をかき乱す

AI要約

放送中の朝ドラ『虎に翼』は、演技の素晴らしさと複雑な人間関係が魅力の作品である。最近の展開では、新キャラクターのすみれが遺産相続の問題で大庭家と対峙する場面が目立つ。

大庭家のメンバーそれぞれの個性や感情がぶつかり合い、俳優たちの演技合戦が見どころとなっている。特に、新キャラクターのすみれを演じる武田梨奈の存在が物語に新たな展開をもたらしている。

武田梨奈はアクション俳優として知られており、身体表現に長けている。彼女の登場により、物語の盛り上がりやキャラクターの深化が期待される。

『虎に翼』武田梨奈が仕掛ける演技合戦 元山すみれの“堂々たる存在感”が大庭家をかき乱す

 放送中の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)は、その作劇やテーマ設定の秀逸さも去ることながら、これらを体現する俳優陣の演技がたまらない作品でもある。

 ここ最近は、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)の母である猪爪はる(石田ゆり子)がこの世を去り、寅子が出会った戦災孤児の道男(和田庵)とのエピソードなどが展開。そのたびに演技合戦が繰り広げられてきた。

 そんなところへ新たに元山すみれが登場した。演じているのは武田梨奈である。

 このすみれとは、寅子とともに法曹の世界を志していたかつての仲間のひとり、大庭梅子(平岩紙)の夫である徹男の妾。徹男の死に際し、彼の遺言書を手に寅子の前に現れた。そこには「元山すみれに全財産を遺贈する」と記されており、彼女自身もこれまで面倒を見てきたのは自分なのだとして、すべての遺産を相続すると主張。これには大庭家の面々も黙っちゃいない。寅子の前で直接対決と相成ったしだいである。

 大庭家の当主が亡くなり、正妻と妾が対峙。いろいろと複雑な状況であるため面白がることははばかられるが、しかしこれを冷静に少し引いたところ見てみると、「面白い……」と唸らずにはいられないのだ。

 朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)にて最初のヒロイン・安子の祖母に扮していた鷲尾真知子が絵に描いたような厳格な姑を演じ、見津賢が演じる大庭家の長男にして弁護士の徹太は、相変わらずどこか他人を見下したところがある。堀家一希が演じる次男の徹次は戦争の後遺症を抱えているようで、本田響矢が演じる三男の光三郎だけが母の味方らしい。梅子はかつて大庭家から逃げ出したことがあるから、この場にいるのはなんとも居心地が悪いだろう。さらにここに、武田が演じるすみれが堂々と存在していたのである。

 一口に「大庭家(と関わる人物)」といっても、そこにまとまりはない。一人ひとりの個性が非常に際立っている。それぞれの立場からの譲れない主張が彼ら彼女らにはあるのだ。しかしお芝居としては、他者の言動を無視することなく、ときに受け止め、ときに反発し、ときにいなさなければならない。これらのシーンは長くはないが、各キャラクターたちの感情が複雑にうねり、それを体現する俳優たちのぶつかり合いによって、かなり見応えあるものになっているのだ。「面白い……」と唸らずにはいられない演技合戦が展開しているのである。

 ここでもっとも自由度が高いのが武田である。彼女は大庭家の外側で生きてきた人物であり、ほかの者たちと違ってある種の文脈のようなものから切り離された存在だ。彼女がどう遊ぶ(=演じる)かによって、物語の盛り上がり度が変わってくることだろう。遺言書が有効なものではないとあっけなく認めたが、かなり肝の据わった女性だ。武田のセリフ回しや振る舞いを見るかぎり、相当にしたたかな人物なのだろう。彼女にもう一波乱くらい起こしてほしいものだが(梅子には申し訳ない……)、果たしてどうだろうか。

 『ワカコ酒』シリーズ(2015年~/テレビ東京系)で知られる武田といえば、アクションに定評のある俳優である。幼い頃より続けてきた空手が初主演映画『ハイキック・ガール!』(2009年)につながったほど。つまり、彼女は身体の扱いに長けている。

 もちろん、これまでの物語の流れから、『虎に翼』にアクションシーンが登場するとは考えられない。しかし、登場人物の日常生活における所作はすべて、アクションだということができる。表情の変化だってそう。しかも身体の扱いに長けている者は、それが発話法にも生きたりするものだ。個人から生まれるものは何もかも、当人の身体とつながっている。これが武田梨奈にとって初めての朝ドラ。すみれ再登場の際にはそのあたりに注意を向けてみたい。