『花咲舞が黙ってない』出演・菊地凛子インタビュー「人は誰でもすごく多面的」

AI要約

菊地凛子は、強靱なパワーを持ちながらも柔軟性としのやかさを併せ持つ俳優として知られている。

役柄に憑依するのではなく、人物の人生を丁寧にたどり、自分に落とし込んで演じるスタイルで知られている。

彼女はプライベートで家族とのつながりを大切にし、人生が実り多きものになるほどに、よりタフに、そして柔軟になっている。

『花咲舞が黙ってない』出演・菊地凛子インタビュー「人は誰でもすごく多面的」

日本を代表する俳優・菊地凛子。宝石の王様"ダイヤモンド"をまとった彼女に、人の複雑性や出演中のドラマについて聞いた。

 どんなにゴージャスなジュエリーをまとっても菊地凛子は、それに臆さない強靱なパワーを宿している。しかしその強さは決して硬質なものではない。むしろしなやかで、どんな強敵をも包み込んでしまう不思議なおおらかさに満ちている。

「性格的に、あまりこだわりがないタイプだと思います。自分はこういうところがダメだなとか、次はここを気をつけようとか、その瞬間瞬間は思っていても同じことを繰り返して、『また同じことやってるな』と思っているうちに諦めがついてきて、いつしか『これも自分なんだな』って受け入れて、でもまた反省して、の繰り返しなんです(笑)」

 人は不動ではなく、いつも揺れ動き、もがいている。みっともないところも含めて"わたし"であるという高い視座は、自らが演じる役にも向けられる。

「台本を読んで、『この人はこういう感じ』と決めつけるのが、私はあまり好きじゃないんです。それによって役の可能性が広がらなくなって、つまらなくなってしまうんですね。人は誰でもすごく多面的だし、いろいろな役割を演じていますよね。ひとりの人が母親であったり、妻であったり、職場では上司としての顔があったり。社会で生きる以上、多面的にならざるを得ないことがあって、その局面で考え方も振る舞いも変わってくる。だから言葉では簡単に表せない複雑性をまとって、人は一日一日を終えていくわけで、そういうフレキシビリティをもって、人物をとらえることがすごく大事だと思っています」

 役柄に憑依するタイプではなく、その人物の人生を丁寧にたどり、自分に落とし込んで演じるのだと言う。

「どんな子ども時代を過ごしたのだろう、家族との関係はどうだったんだろうと想像力を働かせるのは、とても楽しい時間です。そうして感情移入していくうちに、最初はちっちゃかった点が無数の粒になって、パーンと弾けたような感じになる。そうすると、その人物の豊かさが出てくるんですね」

 彼女が演じる役柄が、そのフォルムから重量感に至るまで、肉体としての存在が強い印象を残すのは、こんなふうに役と向き合っているからなのだろう。

「たとえば、ただそこに立っているだけで、『なんかこの人、すげえ!』みたいな人っていますよね。それをどうしたら表現できるのか、というようなことはつねに考えています。セリフに頼ったり、シーンで説明するのは嫌なので、そうではなくて存在としてまるごと表現できたらなと。そう思って演じていると、あるとき、『ああ、そういうことか』とすべてが理解できたと感じることがあって、『結局は同じ人間だもんな』という気持ちになるんです。そうすると、すごく愛情をもって役柄を演じられるんですね」

 演じる役は、大手新聞社の敏腕記者から、人生をこじらせた引きこもりの女性まで多岐にわたるが、「自分が出会う役柄は、自分にとって必要なものなんだろうとつねに思っているので、その偶然をきちんと受けとめたいと思っています。もちろん自分とはかけ離れたキャラクターのときもありますけれど、人には想像力があるから、他人のことを理解できると信じたいし、信じている」と言いきる。そんな人間への深い信頼が彼女の演技の根底にあるのだと感じた。

 プライベートでは、9年前に結婚し、今では二児の母に。考え方や仕事への向き合い方には何か変化があったのだろうか。

「人から見たら変わったと思うかもしれないですが、自分としては、変わるというより、家が増築されていくような感じです。夫と出会って、子どもを産んで、もっともっと別の世界が広がっていくというか、またひとつ新たなチャプターをもらったような感覚で。どんな経験も私は全部宝物だと思っているんですけれど、家族からは本当にたくさんの宝物をもらっています。そして家族という着地する空港があって、どこに飛んでいってもちゃんとそこに戻ってこられるという安心感があるから、どんな役も振り切って演じられるのかなと思います。とにかく家族みんなが健康で、今、自分がこうして生きていること、そして俳優という素晴らしい仕事ができていることに感謝しながら、一日一日を大切に生きていきたいです」

 人生が実り多きものになっていくほどに、彼女はよりタフに、そしてより柔軟になり、スクリーンでも今まで以上に彩り豊かな輝きを放ってくれるに違いない。

 この4月からは、池井戸潤原作の連続ドラマ『花咲舞が黙ってない』に出演。大手銀行を舞台に、上層部の悪事を正そうとするヒロイン・舞の前に立ちはだかる昇仙峡玲子を演じている。

「名前からして強そうですよね(笑)。頭取候補にもなるくらい頭脳明晰なエリート銀行員で、私で大丈夫なのかという不安もありますが、じつは彼女は本当に舞の敵なのかはっきりしないところがあって。敵か味方か、悪か善か、どちらかわからないというのを自分の中のテーマに、私なりのいたずら心をもって演じているので、ぜひ楽しんでご覧いただければと思います」

菊地凛子(きくち・りんこ)

1981年神奈川県生まれ。1999年、映画『生きたい』でスクリーンデビュー。2006年、『バベル』でアカデミー助演女優賞など多数の賞にノミネート。映画『ノルウェイの森』(2010年)、『658㎞、陽子の旅』(2023年)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など出演作多数。映画『パシフィック・リム』シリーズなど海外の作品にも出演。現在、ドラマ『TOKYO VICE Season2』(WOWOW)、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)に出演中。

【写真】フランスの著名な女性飛行家、ジャクリーヌ オリオールが所有したメゾンの名作「ミステールIV」のネックレスに着想を得たデザイン。放射状の複雑な構造ながら、卓越したサヴォアフェールにより、極上の輝きとつけ心地を実現。タンクトップに合わせた究極のシンプルスタイルが、見るものを夢の世界へといざなう

ネックレス「オンヴォル ドゥ ディアマン」〈WG×ダイヤモンド〉¥205,920,000(参考価格)/ヴァン クリーフ&アーペル

ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク

TEL. 0120-10-1906

タンクトップ¥140,800・デニムパンツ¥152,900/ボッテガ・ヴェネタ

ボッテガ・ヴェネタ ジャパン

TEL. 0120-60-1966

BY ASAKO KANNO, STYLED BY TAMAO IIDA, HAIR BY YUSUKE MORIOKA AT EIGHT PEACE, MAKEUP BY UDA AT MEKASHI PROJECT, MANICURE BY KIHO WATANABE AT UKA, TEXT BY HIROMI SATO