「翔平はじっと黙って僕の話を聞いていた」栗山英樹元監督が大谷翔平の"規格外"を思い知った「あの日の試合」

AI要約

2016年、日本ハムファイターズは11.5ゲーム差を逆転してリーグ優勝し、日本一に輝いた。栗山監督はこの大逆転にワクワクし、チームを鼓舞した。

指導者として、栗山監督は選手の理想を意識し、チームに勝利への信念を持たせることを重視していた。彼は大逆転の可能性を信じ、勝つための方法を模索した。

大谷翔平選手を先発ピッチャーとして起用するという計画はスタッフからも苦笑いを買いながらも、栗山監督の自信と決断力がチームに勝利をもたらす契機となった。

大谷翔平選手は今や米大リーグを代表する選手になった。彼の才能はどのようにして花開いたのか。成長を間近で見てきた元日本ハムファイターズ監督の栗山英樹さんは「自身の評価ではなく、選手の理想を意識するのが指導者の役目。思い出されるのは、大逆転でリーグ優勝を果たした2016年の試合のことだ」という――。

 ※本稿は、栗山英樹『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』(講談社)の一部を再編集したものです。

■11.5ゲーム差あったが、ワクワクしていた

 思い起こせば、ファイターズの監督5年目の2016年、2度目のリーグ優勝を果たし、日本シリーズを制して日本一になったことがあります。しかしこの年、ファイターズは6月の時点で首位を走っていたソフトバンクに11.5ゲーム差をつけられていました。

 プロ野球の長い歴史でも、これほどの大差を跳ね返して優勝したチームは数えるほどしかありません。ほとんどの野球関係者は、パ・リーグの優勝はソフトバンクだと考えていたと思います。

 しかし、僕はあきらめていませんでした。むしろ、ワクワクしました。

 「ここまで差をつけられて、もしひっくり返したら、これは面白いな」

 追い詰められたときのほうが、僕は落ち着いていました。普通にやって勝つ以上に、落ち着いていました。

 「そうか、こうなれば、やっちゃいますか」とまで思っていました。

 札幌ドームの監督室の壁に、『真に信ずれば知恵は生まれる』と書いた紙を貼りました。僕は自分に問いかけました。お前は本当に勝とうとしているのか? 勝とうとしているんだろう? 選手に喜んでほしいんだろう? 選手を信じているんだろう? それなら、勝つことから逆算していま何をしなければいけないのか、知恵を絞るべきだろう?

■ヤマ場の3連戦に「1番、ピッチャー、大谷翔平」

 11.5ゲームの差です。普通にやっていたら流れは変わらない。思い切ったことをやるしかないと思いました。こういうときは思い切れるのです。

 ソフトバンクは、2014年、2015年と日本一に輝いていました。僕たちは前年、17もの貯金を作ったのですが、それでも2位だった。ソフトバンクは本当に強かった。そのチームに大差をつけられているのです。

 この年もある程度、戦っているのに、こんなに差が開いてしまった。追い越すどころか、追いつくのさえ至難の業。しかも、予算も潤沢にはない僕たちが、知恵と工夫で彼らを上回ることができたら、どんなにうれしいことか。

 「何か大きなことをしでかしてやるぞ」と思いました。どこかでインパクトのある戦いをしなければいけなかった。

 折しも7月頭にソフトバンクとの3連戦がありました。どうやったら、大きな手が打てるか。1ヵ月ほど前から考えていたことを実行に移しました。

 「1番、ピッチャー、大谷翔平」

 実は事前にまわりのスタッフに伝えたら、苦笑されました。

 「監督、もう何をやっても大丈夫ですから。好きなようにやってください」

 僕のことを最も理解している人たちに、こう言ってもらえた。そのくらいインパクトがあるなら、可能性はあるな、と思いました。