堤防強化事業に「文化財保護」という難題…治水対策と文化財保全、どう両立<西日本豪雨6年>

AI要約

岡山県倉敷市で始まった高梁川の堤防強化事業が文化財保護の難題に直面している。国重要文化財「酒津取水樋門」が存在し、治水対策と文化財保全を両立させる必要がある。

堤防補強工事が必要な区間には樋門があり、支障が出る可能性がある。樋門の移設や補強方法について技術的検討が必要。

有識者検討会が設置され、樋門の扱いについて協議が行われている。治水対策と文化財の共存を図るための最適な方法を模索している。

 2018年の西日本豪雨の被災地・岡山県倉敷市で、今年度始まった高梁川(たかはしがわ)の堤防強化事業が「文化財保護」という難題に直面している。堤防に組み込まれる形で国重要文化財「酒津(さかづ)取水樋門(ひもん)」が存在し、工事に伴って移築や改築が必要になる可能性があるという。農業用水の取水機能を維持しながら、治水対策と文化財保全をどう両立させるのか。国土交通省岡山河川事務所は今月、有識者検討会を設置し、対応策を探っている。

(岡山支局 岡さくら)

 現場は、高梁川流域で住宅街が広がる低地、同市酒津地区。すぐ上流には、支流の小田川の堤防決壊で大規模な浸水被害があった真備地区がある。

 同省は豪雨被害後、小田川と高梁川の合流点を下流に移す付け替え工事(今年3月完了)を実施。流域の治水の安全度を高めてきた。次は、新旧合流点の間にある酒津地区の堤防決壊防止が重要な課題だという。

 酒津地区の堤防は、川が右方向にカーブする地点の左岸にあり、水の流れが速く浸食を受けやすい。約400メートルの区間で堤防を分厚くする工事を予定しているが、鉄筋コンクリート造の酒津取水樋門(幅約22メートル、通水部53メートル)は、区間内にあり、工事で支障が出る可能性がある。

 また、樋門は100年以上前の建設当時の姿を残したまま稼働中で、同市一帯に農業用水を配水している。取水機能を残す必要があり、「堤防の補強と樋門の保護は両立可能なのか」「樋門は移設できるのか」といった課題を技術的に調べる必要がある。

 そのため、同事務所は今月、文化財や河川工学に詳しい大学教授ら5人による検討会を設置。同4日に実施した現地視察では「一般の人が樋門を見学できるよう、現地に残すのが最適だ」「移転は最後の手段にするべきでは」など、現地保存を推す意見が多く上がった。

 検討会は今後、事業の方向性を協議し、7月下旬には樋門の扱いについて決めたいという。検討会委員長の前野詩朗・岡山大特任教授(河川工学)は「治水と文化財の共存を図るため、どのような方法が適切なのか、知恵を出し合いたい」と話している。

  ◆酒津取水樋門= 旧内務省直轄工事として、1920年代前半に建設された。大正期の近代農業用水施設としては国内最大級で、2016年に国重要文化財(建造物)に指定された。周辺には公園や桜が楽しめる遊歩道が整備され、市民の憩いの場となっている。