「道なきところに道をつくる」 最高裁で勝訴した仲岡しゅん弁護士

AI要約

男性から性別変更したトランスジェンダー女性が、凍結しておいた自分の精子を使って生まれた実子との間に、法的な親子関係が認められるかが争われた裁判で、最高裁は21日、戸籍は女性であっても子どもの「父」だと認める初めての判断を示した。

裁判は通常、利害の相反する者が争う場だが、今回は原告である子も被告である親も共に親子になりたいと願っている。仲岡弁護士は、個人の幸せと子の福祉を考え、司法の役割を問い続けてきた。

仲岡自身がトランスジェンダーであることから、性の多様性や生殖補助医療に関する問題に取り組む。若い頃から自らのアイデンティティについて模索し、マイノリティーの権利擁護を通じて法律家として活動している。

「道なきところに道をつくる」 最高裁で勝訴した仲岡しゅん弁護士

 男性から性別変更したトランスジェンダー女性が、凍結しておいた自分の精子を使って生まれた実子との間に、法的な親子関係が認められるかが争われた裁判で、最高裁は21日、戸籍は女性であっても子どもの「父」だと認める初めての判断を示した。この訴訟で、子どもの代理人を務めたのが仲岡しゅん弁護士(38)だ。

 5月31日にあった最高裁第二小法廷での弁論後、「性別に関係なく、子どもには親を定める権利がある。性的少数者も家族をつくる権利があるということを問う裁判だった」と振り返った。

 男性から性別変更したトランスジェンダー女性は、パートナーの女性との間に、凍結保存した精子を使って2人の実子をもうけた。だが同性婚が認められていない日本では、分娩(ぶんべん)したパートナーは子どもの母だが、トランスジェンダー女性と子の法的な親子関係はない。2020年、居住する自治体に父として子どもを認知する届け出をしたが、現在は女性であることを理由に受理されなかった。通常であれば、自治体を相手取り、不受理処分に対する不服申し立ての家事審判を起こすところだが、相談を受けた仲岡は子どもを原告に親に認知を求める裁判を起こすことを考えた。

 裁判は通常、利害の相反する者が争う場だ。だが今回のように、原告である子も被告である親も共に親子になりたいと願っている場合、司法はどうこたえるのか。「個人の幸せ、子の福祉を阻んでいるのは誰なのか。行政であり司法であることを浮かび上がらせたかった」という。

 14年に司法試験に合格、15年に大阪弁護士会に登録して以降、道なきところに道をつくろうと闘ってきた。身体や生活実態はすでに女性であるにもかかわらず、戸籍が男のままだったために男子刑務所に収容されることになったトランスジェンダー女性から相談を受け、刑務所内でも女性として処遇されるよう法務省に申し入れた。女子刑務所での服役はかなわなかったが、服役中もホルモン注射を受けることや入浴時に遮蔽(しゃへい)板を設置することなどを実現した。「未成年の子がいない」ことを性別変更の要件とする性同一性障害特例法は幸福追求権や法の下の平等を定める憲法に反すると、未成年の子がいるトランスジェンダー女性の代理人として性別変更を求める家事審判を起こしたこともある。最高裁が出した結論は「合憲」だったが、5人中1人の裁判官が「違憲」とする反対意見を書いた。

 訴訟などを通じ、性の多様性や現代の生殖補助医療に追いついていない日本の法律や制度について、性別とは、結婚とは、親子とは何なのかを問い続けてきた。

 その問題意識の根っこには、仲岡自身が男性として生まれ、女性として生きるトランスジェンダーであることもある。若い頃から自分が男性なのか女性なのか、何者なのか分からないという思いを抱えていた。大学時代は人権問題サークルに入り、被差別部落の問題や知的障害者の介助などに関心を持ち「マイノリティーの立場で戦える弁護士になりたい」と法律家を志した。