『セクシー田中さん』問題、報告書で分かった日本テレビの拙速なドラマ制作と原作者軽視の姿勢

AI要約

漫画『セクシー田中さん』のドラマ化に関するトラブルと、その背景にある制作期間の短さについて考察された。

日テレが制作期間を短く考え、原作者とのすり合わせが不十分だったことから問題が生じた可能性が指摘されている。

制作期間が長ければ、芦原さんの悲劇を回避できた可能性が高かったという意見や過去の事例も挙げられた。

 人気漫画『セクシー田中さん』(小学館)の原作者・芦原妃名子さん=没年50歳=が今年1月29日、この作品の日本テレビでの連続ドラマ化(昨年10~12月)をめぐるトラブルの後に自死した件で、日テレと小学館がそれぞれ調査報告書を公表した。

 それをベテランのドラマプロデューサーと一緒に読み、真の問題点を浮き彫りにしたい。

■ 短すぎる制作期間

 まず、悲劇の背景には2つの大きな要因があると考える。1つは日テレ制作陣が漫画のドラマ化をあまりにも安易に考えていたということ。もう1つが日テレにはSNSによって誰かが深く傷つくという認識が不足していたことである。

 日テレ制作陣が漫画のドラマ化を軽く考えていたのは制作期間を見ても明らか。日テレの報告書によると、『セクシー田中さん』のドラマ化は昨年3月29日に着手。放送は同10月22日からだったので、制作期間は半年間しかなかった。

 過去に小説と漫画を計10作以上ドラマ化した他局のドラマプロデューサーは「制作期間が短すぎた」と断じる。芦原さんら漫画家には著作者人格権に基づく同一性保持権(著作物の内容を勝手に改変されない権利)があり、原作と脚本のすり合わせにはかなりの時間がかかると容易に想像できたが、それが深く考えられていたとは到底思えない。

 日テレが作成した91ページにおよぶ報告書を読むと、制作期間が半年間しかなかったことについて、最初は「ほかのドラマ制作と比較して、特段スケジュールが短かったということはなかった」と書かれている。しかし、読み進めていくと、「今回の制作期間が適切であったかどうかは、一考の余地があるといえよう」などとニュアンスが変わってゆく。ただし、それでも制作期間に問題があったとは明言していない。

 それでいて、報告書の後半にある「今後へ向けた提言」では、「十分な制作期間を確保する必要がある」としている。本当は制作期間の短さに重大な問題があったと分かっているのだ。だが、それでは制作体制や組織づくりの不備を認めることになってしまうので、報告書では問題としなかったのではないだろうか。

■ 制作期間に余裕があればこんな悲劇は…

 他局は原作がなくても脚本家と主演を放送の1年前に決めることが珍しくない。日テレもほかのドラマではそうなのだ。

 「制作期間が1年以上あったら、芦原さんの悲劇は避けられた可能性が高い。芦原さんと日テレ制作陣のドラマ化に対する考え方が違うと分かった時点で、プロデューサーが制作を中止し、ほかのドラマに差し替えれば良かったのだから」(ドラマプロデューサー)

 過去には実際に原作者の意向でドラマ化が白紙になったケースもある。それは制作期間が十分あったから可能だった。たとえば、やはり人気漫画の『のだめカンタービレ』である。当初はTBSが2005年の放送予定で制作を進めていた。主演は上野樹里(38)と岡田准一(43)の予定だった。

 しかし、岡田が当時所属していた旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)が、脚本の中身や主題歌の選定に介入する動きを見せたため、原作者の二ノ宮知子氏が態度を硬化させる。このため、TBSはドラマ化をあきらめた。代わりに井上真央(37)主演の『花より団子』(2005年)を制作した。やはり漫画が原作だ。

 『のだめカンタービレ』のドラマ化権はフジテレビに移り、翌2006年に上野と玉木宏(44)の主演で放送された。