【ルフィ広域強盗事件】5年に及んだ匿流との闘い。さらに裏にある日本人犯罪組織「JPドラゴン」の尻尾をつかむ

AI要約

警察の捜査で、広域強盗事件に関連する複数の事件の犯人が逮捕され、重要な情報が明らかになる。

指示役の藤田被告が自白し、事件の全容が明らかになる一方、異例の取り調べによって捜査が進展する。

捜査本部の柔軟な対応によって、事件解明に向けた成果を上げることができた。

【ルフィ広域強盗事件】5年に及んだ匿流との闘い。さらに裏にある日本人犯罪組織「JPドラゴン」の尻尾をつかむ

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30年を超える記者生活で警察庁・警視庁・大阪府警をはじめ全国の警察に深い人脈を築き、重大事件を追ってきた記者・甲斐竜一朗が明らかにする刑事捜査の最前線。最新著書『刑事捜査の最前線』より一部を連載形式で紹介! 

前編記事<【ルフィ広域強盗事件】「シュガー」渡辺被告のiPhoneロックを解除!  アップルでも解除できないロックをハイテク班はいかにして解いたか>

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 次いで着手したのは、千葉県大網白里市で2023年1月、リサイクルショップの店長がけがをした強盗事件。捜査本部は7月20日、強盗致傷の疑いなどで再び今村磨人被告を逮捕する。この事件では実行役ら4人が逮捕されていたが、テレグラムではミツハシから指示を受けていた。4人のうち1人が不起訴となるが、この男性はかつてビクタン収容所に収容されたことがあり今村被告と面識があった。男性は「(今村被告から)頼まれて実行犯に現金を渡した」と供述。この現金がレンタカーの手配など強盗の軍資金になっており、これらの事実から捜査本部はミツハシも今村被告だと特定することができた。

 合同捜査本部は大網白里市の事件に続いて8月22日、東京都足立区で1月20日に強盗の準備をして住宅に侵入したとする強盗予備の疑いなどで、今村、渡辺、藤田の3被告らを逮捕した。広域強盗事件の指示役として渡辺、藤田被告が逮捕されるのは初めて。この事件ではそれまでに実行役ら4人が逮捕、起訴され、うち3人は前日に発生した狛江市の事件でも起訴されていた。

 足立区の事件の立件は、全容解明に向けた捜査の行方を決定づけることになる。この事件での逮捕から5日後ぐらいに藤田被告が全面自供に転じたのだ。捜査陣にとってはうれしい誤算だった。マニラから強制送還された4人のうち小島被告だけが事件について少しは話していたが、同被告はリクルーター役でそもそも事件の核心部分についての関わりは薄く、他の3人は否認だった。

 藤田被告は涙を流し、死亡した狛江市の事件の被害者に対して「本当に申し訳ないことをした」と謝罪。「弁護士からはしゃべると不利になると言われたけれど、真実を話すべきだと思った」と述べ、知っていることをすべて話したとされる。指示役4人がそれぞれ出していた指示の具体的な内容や、どういうアカウントを使っていたかなどを詳述。いずれも信用できる内容で客観証拠とも合致していた。藤田被告は自白に転じた後は一切ぶれることはなかったという。

 捜査幹部は「渡辺被告のスマホが開き、指示役の中核メンバーでもある藤田被告から供述を得られた。共謀している状況が全部分かり、テレグラムもある程度だけど復元できた。捜査はガチガチに固まった」と自信を見せる。

 広域強盗事件の全容解明が目的の捜査本部だが、当初は特殊詐欺に絡む窃盗容疑で指示役4人の逮捕を重ねたため、渡辺、今村、藤田の3被告の取り調べには捜査2課の捜査員が、小島被告には捜査3課の捜査員がそれぞれ当たった。捜査2課と3課の取調官はそれぞれ「強盗での立件に入れば、取り調べは捜査1課に代わるだろう」と考えていたという。ところが、捜査本部を仕切っていた捜査1課の管理官と係長は広域強盗事件での取り調べも「そのままやってくれ」と2課と3課の取調官を続投させた。

 足立区の事件に次いで、合同捜査本部は9月12日、「本丸」と位置づけていた狛江市の強盗殺人事件で犯行を指示したとして渡辺、今村、藤田、小島の4被告を逮捕した。それまでの取調官が引き続き担当したため、殺人事件の容疑者を知能犯担当の捜査2課の捜査員が取り調べるという前例のない組み合わせとなった。捜査幹部は「適性を見極めて1課の管理官と係長が配置したと思う」と説明する。縦割り意識が強い刑事の世界では本来あり得ない捜査指揮だが、従来の枠にとらわれない管理官らの柔軟な判断と取調官の能力が藤田被告を自白へと導いた可能性はあるだろう。