鉄道の障害者割引は「半人前扱い」「謎ルール」なのか?JR・大手私鉄が単独割引をしないワケ

AI要約

鉄道各社が障害者向けの割引制度を拡充しているが、現行制度が不十分との声もある

割引対象に精神障害者を含める事業者の取り組みが進んでいる

障害者割引の適用ルールが今の時代にそぐわないとの指摘がある

鉄道の障害者割引は「半人前扱い」「謎ルール」なのか?JR・大手私鉄が単独割引をしないワケ

 鉄道各社は近年、障害者向けの割引制度などのサービス拡充を進めている。だが、現在の割引制度は障害者福祉の観点から不十分との声も根強い。割引を拡大する事業者と当事者の間に、どんな隔たりがあるのだろうか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

● 鉄道各社が精神障害者を 障害者割引の対象に

 京成電鉄は6月1日に営業制度を改正し、障害者割引の対象に精神障害者を追加する。大手私鉄では西鉄が2017年、近鉄、南海、東急、京王が2023年、名鉄が今年3月16日から精神障害者を割引対象に含めていたが、残る大手私鉄10社とJR6社も今年4月11日、一斉に導入を発表した。東京メトロは8月1日、阪急と阪神は2025年1月末、その他の各社は2025年4月1日に追加する予定だ。

 近年、東海道新幹線などの車椅子スペース増設や、2023年3月に導入された障害者用Suica・PASMO、今年2月に始まったJR東日本のインターネット予約サービス「えきねっと」、JR西日本の「e5489」での障害者割引乗車券の発売など、障害者向けサービスの拡充が進んでいる。

 当時の赤羽一嘉国土交通相が2021年6月に指示した「真の共生社会実現に向けた新たなバリアフリーの取組」で示された、「障害者用ICカードの導入」「特急車両における車椅子用フリースペースの導入」「ウェブによる乗車船券等の予約・決済の実現」「精神障害者割引の導入促進」が形になった格好だ。

 とはいえ、現在の割引制度は障害者福祉の観点から不十分との声も根強い。例えば2023年6月、脳出血に起因する高次脳機能障害を患う劇作家の相馬杜宇さんはオンライン署名サイト「Change.org」にて、国交省と大手私鉄宛てに割引制度の見直しを求める署名を立ち上げ、1年で約3万5000筆の賛同を集めている。

● 今の時代にそぐわない 障害者割引適用のルール

 割引を拡大する事業者と当事者の間に、どんな隔たりがあるのだろうか。

 国立国会図書館の調査報告『公共交通における障害者・高齢者運賃割引制度』によれば、障害者割引制度は1949年に制定された身体障害者福祉法に基づき、介護者を必要とする身体障害者が乗車する際に両者の運賃を半額とする旨の規定が国鉄運賃法に追加されたことに始まる。

 1952年に障害の等級による「第1種」「第2種」の区分を設け、「100キロを超える場合の単独乗車の割引」を追加した。1991年に知的障害者、今回、精神障害者が追加されたが、制度の基本的な骨格はこの頃から変わっていない。

 その上で、精神障害者追加後の制度をまとめると、運賃が5割引きになるのは次の2つのケースだ。

 (1)第1種の身体・知的・精神障害者とその介護者が同乗する場合、本人および介護者の両者

(2)第1種・第2種の身体・知的・精神障害者が単独乗車し、なおかつ距離が100キロを超える場合

 しばしば誤解されるが、障害者が1人で鉄道を利用するほとんどのケースで運賃の割引は適用されない。介護者と一緒に利用する場合は双方が半額、つまり2人で1人の運賃で利用できるというわけだ。

 1人で101キロ以上(他社線との連絡運輸=1枚の切符で発行できる範囲を含む)の利用では、新幹線などを利用した場合でも運賃のみが半額となり、往復割引など他の割引制度とは併用できない。つまり日常的な鉄道利用は対象外となる。

 これに対して前述の署名サイトでは、現状について下記のように紹介し、100キロ以下でも単独利用を認めるように訴える。

皆さんは、障がい者が鉄道を使って移動する際、「介護者が同伴」または「単独の場合は101キロ以上の移動」でないと、障がい者割引が適用されないというルールがあることをご存知でしょうか。

このルールはJRや小田急電鉄など、多くの鉄道会社が決めているものです。しかしこのルール、実は旧国鉄時代に定められたとても古いもので、バリアフリー化が進んで障がい者が1人でも移動できる今の時代にはそぐわない制限になっています。