漁師はライフジャケット常時着用を 水産庁が強く訴え

AI要約

漁業におけるライフジャケットの重要性と着用義務について

着用率や実例を通じて、ライフジャケットが安全を確保する役割を示す

水産庁の取り組みや漁業安全の重要性について

漁師はライフジャケット常時着用を 水産庁が強く訴え

 海を生業の場とする漁業は、「板子一枚下は地獄」と言われるように、危険と隣り合わせの過酷な仕事だ。ベテランの漁師でさえ、時には海へ投げ出されてしまうこともある。そうした漁船事故の際、漁師を守るのがライフジャケットだ。水産庁は安全確保のため、常時着用を強く訴えている。(時事通信水産部長 川本大吾)

◆原則すべての漁業者に着用義務

 漁船の事故は毎年、数百件単位で発生し続けている。国は2018年、20トン未満の小型船の乗組者に対してライフジャケットの着用を義務化した。20トン以上の船は、船員法によって以前から着用が義務化されていたため、原則としてすべての漁業者への着用が義務付けられたことになる。

 海上保安庁によると、2023年の海上における漁船の人身事故者数は合計252人だった。このうち海中転落者は62人で、半数以上の38人が死亡あるいは行方不明となっており、着用義務化前の17年と比べ、ともに2割ほど減少した。また、同庁の2018年から22年までのデータでは、ライフジャケット着用者の海中転落時の生存率は、非着用者に比べて約2倍となっている。

◆海上で脱いでいる?

 水産庁によると、漁業協同組合を通じた聞き取りなどにより判明したライフジャケットの着用率は、24年が全国平均で9割を上回った。ただ、徳島県や兵庫県、香川県、愛媛県、大分県など、瀬戸内海に面した地域でやや着用率が下がる。その要因について、関係者は「比較的狭い海域で船舶の航行が多いことから、『万が一の時は他の船が救助していくれるだろう』といった考えもあるのではないか」とみている。

 また、海上保安庁は「近年、実際に海中転落した漁業者の着用率は約5割と低い」としている。船上でライフジャケットを脱いでしまうのか、出港時から着用していなかったのかは定かではないが、敬遠される理由としては「かさばって作業しづらい」「着脱しにくい」「(漁船上の機材などに)引っかかったり、巻き込まれたりする恐れがある」ことなどが挙げられている。

 これから夏に向け、着用を嫌う漁業者も増えるとみられ、水産庁は「車のシートベルトと同様、万が一、海に投げ出されたときに、ライフジャケットが命を守る効果は明らか」と強調している。

◆「ライフジャケット着用で救助」の実例

 海保の報告によると、これまでライフジャケットの着用によって難を逃れ、救助された例が紹介されている。ある漁船の乗組員は、漁を終えて帰港中、漁網の整理中にバランスを崩して海へ転落したが、救助された。「40年くらい漁師をしていて、漁に出るときは必ずライフジャケットを付けている。海に落ちたのはこのときが初めて。泳げないのでとても不安になったが、ライフジャケットのおかげで体が沈むことなく、船が(自分の方に)戻ってくることを確認できたので、落ち着いて助けを待つことができた」という。

 また、別のある漁師は、沖合で漁具を海中に投入する際、漁具と一緒に乗組員が海中に転落した。「足を骨折して泳げる状態ではなかったが、ライフジャケットを着ていたので浮くことができ、船で作業中の船長に助けを求め、無事救助された」という例もある。

 漁船事故で漁師が死亡したり、行方不明になったりすれば、「漁業は危険な職業」とのイメージが付き、漁業に就業する若者がますます減りかねない。水産庁は漁業協同組合と連携し、ライフジャケットを海上で常時着用するよう呼び掛けており、各地で講習会を開催しているほか、毎年10月の全国漁船安全操業推進月間の際には、一定期間、事故件数がない漁協を表彰するなど、安全操業に向けた取り組みを行っている。