だからトヨタは「全方位戦略」を貫いた…「富裕層のシンボル」テスラがここにきて大失速しているワケ

AI要約

テスラの業績が減速し、中国市場での価格競争が激化していることが不透明感を高めている。

米国市場でもEVの好みが変わりつつあり、テスラの成長勢いが鈍化している。

中国製EVの値下げ競争に追いやられるテスラの対策が不透明な中、中国市場での採算悪化が課題となっている。

■背景に「血で血を洗う」中国市場の価格競争

 足許、米電気自動車(EV)メーカーである、テスラの先行きに不透明感が高まっている。これまで同社は、世界最大の新車販売市場である中国および、第2位の市場である米国で生産能力を構築し業績は拡大してきた。ところが、その勢いに陰りが見え始めている。今年1月~3月期の収益は約4年ぶりの減収減益だった。

 テスラの業績減速の背景には、中国のEV市場の競争激化がある。特に、EV分野の価格競争は熾烈を極めている。2019年、中国国内で約500のEVメーカーが政府に登録された。どう見ても、過剰メーカーがひしめいていた。

 その結果、価格競争は激化した。不動産バブル崩壊による景気低迷も深刻化した。EVメーカーは100社程度に淘汰されたとみられる。中国EV市場は、多くの企業が血で血を洗うような激しい価格競争を繰り広げる、いわゆる“レッドオーシャン”の状況に陥っている。

■「EV一本足打法」が裏目に出たか

 それに加えて、米国市場でもテスラの成長の勢いは鈍化している。航続距離の短さ、充電インフラの整備の遅れなど、消費者の好みはハイブリッド(HV)やエンジン車に向かい始めた。テスラの新型モデルの供給体制に不安を強める消費者も多い。

 今後、中国EVメーカーの追撃はさらに厳しさを増すことだろう。テスラの打開策が本格的な成果を上げるか否か、先行きは見通しづらい。

 ただ、中長期的に、脱炭素などで主要先進国のEVシフトは加速する。米国政府としてもテスラを破綻させるわけにはいかないはずだ。半導体やEV分野で、米国が対中制裁措置を強化するリスクも上昇傾向だ。EV一本足打法のテスラが環境変化にどう対応し収益力を立て直すか、不確定な要素は多い。

■最終利益が前年同期比55%減に沈んだ理由

 テスラの今年1月~3月期の売上高は、前年同期比9%減の213億100万ドル(1ドル=155円換算で約3兆3000億円)だった。最終利益は同55%減の11億2900万ドル(約1700億円)と落ち込み幅が大きかった。

 最重要市場の中国EV市場の“レッドオーシャン化”はかなり強烈だ。テスラは、上海に同社最大の工場を建設し、中国向け、海外向けのEV生産を強化した。中国政府は、テスラへの補助を実施し、低コスト生産体制の強化を支援した。

 テスラから中国のEVメーカーへの技術移転が加速した。中国政府はEV分野の産業政策も強化した。EVメーカーではBYD、埃安(アイオン)、五菱(ウーリン)、車載用バッテリーメーカーのCATL、バッテリー絶縁材など部品メーカーの上海エナジーなどに土地の供与や研究開発、生産強化の補助金を支給した。

 シャオミやファーウェイなどの、IT先端企業のEVへの新規参入も増加した。産業補助金などを支えに中国勢のEV生産能力は急速に拡大した。生産コストも低減した。ブランドは違うが性能はあまり変わらないEVが市場にあふれ出た。

■値下げ競争では中国製EVにかなわない

 供給が需要を上回り、過剰生産能力は累積している。それに伴い、値下げ競争が激化している。相手が価格を下げれば、より大幅に値下げをする。値下げ競争に拍車がかかり、淘汰される企業も増えた。現状、中国EVメーカーで安定的に収益を獲得できるのは、BYD、アイオン、ウーリンなど一部に限られるとの見方もある。

 熾烈な競争で競争企業が互いの体力を削ぎあう、“レッドオーシャン化”は鮮明だ。中国市場で、テスラも値下げせざるを得ない状況だ。しかし、テスラは、競合する中国勢とのコスト負担の差を埋めることは難しい。積みあがる在庫を圧縮するために、追加の値下げが必要な負の循環にテスラは陥っている。

 不動産バブル崩壊による個人消費の停滞なども深刻だ。中国市場でテスラの採算は悪化し、安定的に獲得することは難しくなった。