ライダーのウエア、なぜ地味な色合いが多い?
2024年の僕(木下隆之)は、ニュルブルクリンクに半地下アパートを借りてドイツの選手権にフル参戦しているのですが、毎日レースがあるわけではなく、レース以外では暇に時間を持て余しているのです。
そんな時は決まって、ニュルブルクリンクのサーキットまで足を伸ばして(といっても15分の距離ですが……)、観客席やギャラリーコーナーでノンビリと、一般ドライバーの走りを見学することにしているのです。
さすがにモータースポーツ好きでありバイク好きのドイツ人ですから、サーキットで大規模なレースの開催がなくても、ギャラリーコーナーは多くの人たちで賑わっています。
「平日なのに暇だなぁ」と、羨ましくもあり呆れもしますが、ドイツ人にとってサーキットは身近な存在のようです。そもそもニュルブルクリンクのギャラリーコーナーは国道に接しており、とくに入場券を購入する必要もありません。誰もが気楽にサーキット観戦できるのです。
そこでは多くのライダーを見かけるのですが、そのほとんどがロングツーリングの途中に立ち寄ったような、重装備が特徴です。もしくは、簡易的なテントやチェアを持参して観戦するスタイルが一般的なようです。
印象的なのは、ライダーズジャケットの色合いが地味なことです。黒やブラウン、あるいは迷彩色のような、背景に沈み込む色味が多いような気がします。
素材は本革、もしくはフェイクレザーかもしれませんが、いかにも正統派ライダーといった雰囲気を醸しているのです。
日本では、やや派手なカラーが目立ちますが、それとは対照的です。ウエアのブランドロゴが浮き上がるような、そんな衣装も少ないようです。
アベレージ速度が高いドイツの公道では(法定速度100km/h)、夜間でも目立つカラーの方が安全なような気がします。黒や茶色は目立ちませんよね。まして迷彩色は本来、背景に紛れるための衣装です。敵に存在を知られないようにするためのカモフラージュですから認識度は低い。逆に危険度は高いですよね。
「なぜ、地味な色合いが多いのですか?」
知り合ったドイツ人ライダーに、素朴な質問を投げかけてみました。すると極めて論理的な答えが得られたのです。
「ドイツの田舎道を走る際に、このほうが虫がつかないんだよ」
かつて、カラーと虫の関係をコラムで紹介したことがあります。黄色やペパーミントグリーンのようなヴィヴィットな色味には虫が吸い寄せられるとのことです。紫外線を反射するカラーは虫に好まれるそうです。地味な色合いの方が、虫でジャケットが汚れにくいのです。
確かにドイツは緑が多い国です。都会を出た途端に、緑豊かな風景が広がります。ライダーにとって夢のような環境ですが、唯一の弊害は虫の死骸が付着することですね。
「だから黒や茶色のジャケットがいいんだよ。しかも本革だと、汚れも簡単に拭き取れるからね」
なるほど、カラーリングに対するこだわりは、きわめて実質的な理由だったようです。
「その点で最高なのは、カモフラージュ柄のジャケットだよ。だって、汚れたまま放置していたって、目立たないんだから……」
知人のライダーは、そう言って笑いました。