結局、スター選手が多いチームは本当に強いのか?「野球」と「サッカー」で「まさかの違い」が生まれた理由

AI要約

レアル・マドリーが「銀河系軍団」と呼ばれるも低迷する理由を、行動経済学の一つである「サンクコスト効果」から解説。

スーパースターを集めることがチームの攻守のバランスを崩し、逆効果になる可能性がある。

研究によると、サッカーやバスケではタレントが増えすぎるとチームの成績が低下し、選手間の連携が弱まる可能性がある。

結局、スター選手が多いチームは本当に強いのか?「野球」と「サッカー」で「まさかの違い」が生まれた理由

----------

デビッド・ベッカムなどのスーパースターを集め、かつて「銀河系軍団」と呼ばれたレアル・マドリー。しかし、スターを集めれば集めるほど、なぜかチームは低迷していくのだった……。新刊『行動経済学が勝敗を支配する』を上梓した今泉拓氏が、行動経済学の理論のひとつである「サンクコスト効果」の視点から、その理由を解説する。

----------

 サッカーのレアル・マドリーは2000年から2006年にかけて、圧倒的な資金力を背景に地球上のスター選手を次々と獲得しました。

 2000年にはライバルのバルセロナからルイス・フィーゴ、2001年にはユヴェントスからジネディーヌ・ジダンを、2002年にはインテルからロナウドを獲得するなど、スーパースターが集合する様は銀河系軍団と呼ばれました。

 さらに、2003年には守備的なプレーが目立つクロード・マケレレを放出。代わりにマンチェスター・ユナイテッドからデビッド・ベッカムを獲得し、ついにピッチ上には11人のスーパースターが揃い踏みしました。

 まさにネームバリューにおいては地球上で敵なしになったレアル・マドリー。ファンは黄金期の到来を期待しました。

 しかし、そんなファンの期待とは裏腹にレアル・マドリーは低迷。2000年から2002年までの3年間では6つのタイトルを取れたのに対して、ベッカムが加入した2003年以降の3年間ではタイトルを1つも取れませんでした。

 銀河系軍団の低迷は、スターを集めすぎたことによってチームの攻守のバランスが崩れたことに原因があるといわれています。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということわざもありますが、スターを集めすぎるのもよくないといえそうです。

 実は、行動経済学の先行研究では、スターが増えすぎるとかえってチームが勝てなくなることを示すものが存在します。では、どうしてスターが増えすぎるといけないのでしょうか、サンクコストの視点から考えていきます。

 まずは、スターが増えすぎるとかえってチームの成績が落ちる「タレント過剰効果」を示した欧州経営大学院(フランス)に所属するスワーブらの研究を紹介します。

 スワーブは、野球、サッカー、バスケについて、チーム内のタレント(スター選手)の割合とチーム成績の関係性について調査しました。

 下のグラフの横軸はタレント割合、縦軸はチーム成績になっています。タレントの割合については、所属チーム・給与・成績などを参考にして、各選手をスターかどうか割り振っています。

 分析の結果、野球のみ異なる傾向になりました。野球のグラフをみると、タレント率とチーム成績が正比例になっています。タレントが増えれば増えるほどチーム成績もよくなると示されました。

 一方、サッカーやバスケでは逆U字型のグラフになりました。つまり、ある程度まではタレントが増えると成績が高まりますが、タレントが増えすぎるとチーム成績が低くなってしまうことがわかりました。先述のレアル・マドリーのように、タレントがいすぎると停滞につながる可能性が示されました。

 この原因について、スワーブたちは追加分析を行ないました。その結果、サッカーやバスケではタレントが過剰になると選手間のコンビネーション(連携)が弱くなり、その結果チーム成績が悪くなるということがわかりました。

 一方、野球ではサッカーやバスケほどコンビネーションが求められないので、タレントの割合とチームの成績が比例関係になると考察されています。