「新電力」顧客流出、ロシアのウクライナ侵略がきっかけ…「売れば売るほど赤字拡大」で値上げ

AI要約

新電力会社が九州電力からの流入を初めて上回り、電気代の値上げによる顧客離れが起きた背景を明らかにした。

新電力は卸電力市場で電気を調達し、多くが値上げに苦しんだことが浮き彫りになった。

新電力への信頼が揺らぎ、業界全体で撤退や倒産が相次いでいる状況が続いている。

 家庭向け電力販売を巡り、2023年度は新電力会社から九州電力への流入が、九電から新電力への流出を初めて上回った。多くの新電力が、電気を調達する卸電力市場の取引単価の高騰で電気代の値上げを余儀なくされ、顧客離れを招いたからだ。大手に比べて経営の余力が小さい新電力の弱点が浮き彫りとなった。(松本晋太郎)

 16年4月に電力小売りが全面自由化されて家庭向け販売に新規参入できるようになって以降、携帯大手や商社、中小企業などの参入が相次ぎ、低価格を武器に次々と顧客を獲得した。しかし、新電力の多くは自前の発電設備を持たず、大手電力などが電気を売買する卸電力市場で調達した電気を家庭や企業に届けている。

 顧客流出のきっかけとなったのは、22年2月のロシアのウクライナ侵略開始だ。供給不安などから火力発電の燃料となる石炭や液化天然ガス(LNG)価格が上昇した。22年度の卸電力市場の平均取引単価は前年度の1・5倍に跳ね上がった。

 「電気を売れば売るほど赤字が拡大する状態」(新電力関係者)となった新電力が値上げに踏み切る中、余力が大きい大手は赤字でも価格を据え置いたり値上げ幅を抑えたりした。対抗できなくなった新電力は経営に行き詰まるケースが相次いだ。

 帝国データバンクによると、21年4月時点で706社あった新電力は、24年3月までに約2割の119社が撤退や倒産に追い込まれた。九州では、ホープエナジー(負債約300億円)や地元電力(同5億円)などが破産した。

 新電力への信頼は揺らいでいる。現状の燃料価格は一時期に比べて落ち着いているものの、九電から新電力への契約切り替え件数は毎月2000~3000件台と低迷している。ウクライナ危機前は毎月1万~2万件台に上った。

 海外では電力小売りの全面自由化後に大手の寡占が進んだ事例もある。エネルギー価格の先行きが不透明な中、新電力の真価が問われている。