「99%の人は仕事していない」のか…上司が無能に見えてしまう「単純な理由」

AI要約

組織の上層部に無能が多い理由として、上司の適性と能力の関係が欠如している構造が問題とされる。

現代の健全な企業は、経営思考を持つ従業員を増やすことで無駄な仕事を減らし価値創造に集中させる取り組みをしている。

価値創造なき無駄な仕事の排除と、上司の適性向上が組織のパフォーマンス向上につながり、企業経営にもプラス効果をもたらす。

「99%の人は仕事していない」のか…上司が無能に見えてしまう「単純な理由」

 なぜ組織の上層部ほど無能だらけになるのか、張り紙が増えると事故も増える理由とは、飲み残しを放置する夫は経営が下手……。

 わたしたちはいつまで金銭や時間など限りある「価値」を奪い合うのか。13万部突破のベストセラー『世界は経営でできている』では、東京大学史上初の経営学博士が日常・人生にころがる「経営の失敗」をユーモラスに語る。

 今回も読者の皆様に身近な「仕事」という切り口で話を進めていきます。

 「世の中の九割九分九厘の人は仕事をしていない。その筆頭はもちろん私である」

 これが私の持論です。

 「何を言っているんだコイツは?」とお思いの方、もう少しおつきあいください。

 正確には、人間の労力や時間のほとんどが、一応は「仕事」という名前がついているだけの無意味な「作業」に費やされている。そんな身も蓋もない事実を指摘したいのです。

 本来の仕事は、「顧客を生み出し、顧客を幸せにして、その対価として顧客が喜んで報酬を支払ってくれる」ようなものでなければなりません。そうでない仕事は「仕事という名前がついている作業」に過ぎません。しかも、無駄な叱責や無駄な会議や無駄な書類など、仕事という名前が付いている作業が仕事をつまらなくします。そんなものは、どんどん減らしていくべきです。

 しかし、ほとんどの企業や組織はそうなっていません。

 企業が真の意味での仕事、すなわち価値を生み出す経営をできないのは、一般的には「上司が無能だから」という理由から生じるとされます。でも、本当は上司本人が悪いわけでもないのです。上司が無能になってしまう原因もあります。

 「ああ、上司が無能なのは、うちの会社だけじゃなかったんだ……」

 そう思った人も多いかもしれません。実は「上司が無能になる」のは構造的な理由があります。そしてその構造に気が付けば、今現在上司として働く人も、部下として働く人も、ここから抜け出すヒントがあります。

 現代の多くの官僚制組織に共通する条件を次のように仮定してみましょう。

 条件1:組織はピラミッド状であり複数の階層(職階)が存在する

条件2:ある職階において最も成績が良かったものがより上位の職階に就く

条件3:複数の職階において求められる能力はそれぞれ異なる

条件4:個々人が持つ能力はランダムに割り振られ、異なる能力間に相関関係はない

 さて、この4つの条件がそろうとどうなるでしょうか? 

 ある職階で優秀であっても新しい職階では優秀ではない人が、その上の職階に進むことができずに適正ではない職階にとどまり続けるという状況が起きるのです。

 その結果、あらゆる上司は「自分の適正ではない職階」まで出世し、そこにとどまることになるので、組織の上層部は無能だらけになってしまうのです。もちろん、実際にはクビや降格もありえますが、部下には無能な上司も「上司の上司に取り入る技術」があったりしますので状況はあまり変わりません。もともと「ピーターの法則」として知られていた現象ですが、近年、物理学者によるコンピュータシミュレーションでも検証されました。

 よく言われるのは、プレーヤーとして優秀だった社員が、出世してマネジメント側になった途端に力が発揮できなくなるというケースです。プレーヤーとマネージャーでは、仕事の内容も求められる能力も異なるので当然といえば当然なのですが……。

 ですが、このような経営思考を上司になる前の一プレーヤーの段階で身につけておけばどうでしょうか? 

 この場合は、先述の条件4に「異なる能力間に相関関係はない」とありますが、マネジメント意識をもちながらプレーヤー時代を過ごすことで、能力間に相関関係を自ら作り出すことができます。いざ自分が上司になったとしても、「無能な上司」にはならずにすむでしょう。

 実際に、現代において業績が伸びている健全な企業は先述の4条件がそろわないように工夫しているといえるでしょう。たとえば、「普段の仕事を価値創造思考の経営の視点で取り組む人を増やす」ことで、条件3と条件4は満たされなくなります。すべての仕事が価値創造という視点から相関するようになれば、組織は無能だらけにならないわけです。

 だからこそ、『世界は経営でできている』を個人で読むだけでもメリットがありますが、組織全員で読めばもっと大きなメリットがあると思っています(笑)。結局、「うちの会社は上司が無能でさ~」と嘆くのは誰にでもできますが、実際にはこうした構造があるわけで、無意味な仕事が発生する責任は多かれ少なかれ全ての人に存在するのです。

 そして、上司が有能であれば、その下にいる人たちも生き生きと働けるわけで、ひいてはそれが組織のパフォーマンス向上につながり、企業経営にも大いにプラスになるのです。価値創造につながらない無駄な仕事、苦労だけ多い仕事は減って、価値創造に集中することで創造性も上がる。そんな理想的状況が論理的にもありえるわけです。

 これこそが仕事における価値創造なのです。

 つづく「老後の人生を「成功する人」と「失敗する人」の意外な違い」では、なぜ定年後の人生で「大きな差」が出てしまうのか、なぜ老後の人生を幸せに過ごすには「経営思考」が必要なのか、深く掘り下げる。