なぜどんな会社でも「人間関係のトラブル」が絶えないのか…「不和の種をまく人」の実態

AI要約

根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。『職場を腐らせる人たち』では、豊富な臨床例を通してその心理を明らかにする。

ある食品メーカーで起きた胸ぐらをつかむ事件から始まる話では、50代の男性社員が元株をつかんだ理由を、愚痴を流した別の同僚による告げ口から明らかにする。

社内で事実を歪曲し、誰かを憎まれ役に仕立てるAさんの行動を通じて、人間関係での信頼の欠如や、責任転嫁がどのように生まれるかを探る。

なぜどんな会社でも「人間関係のトラブル」が絶えないのか…「不和の種をまく人」の実態

 根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。発売たちまち5刷が決まった話題書『職場を腐らせる人たち』では、ベストセラー著者が豊富な臨床例から明かす。

 私がメンタルヘルスの相談に乗っている食品メーカーで、50代の男性社員が30代の男性社員の胸ぐらをつかみ、「ふざけるな。俺の話をちゃんと聞いとけ」と怒鳴った。その部署の上司が驚いて、こんな騒ぎになった事情を双方それぞれに尋ねたところ、この騒動には、別の50代の男性社員、Aさんがからんでいたことが判明した。Aさんが、胸ぐらをつかんだ男性に、30代の男性社員が愚痴をこぼしていたのを聞いたと告げ口したのだ。

 胸ぐらをつかんだ男性は、仕事上のミスを減らすための勉強会を主宰しており、それに胸ぐらをつかまれた30代の男性も参加していた。あるとき、胸ぐらをつかんだ男性が、同期のAさんに誘われて二人で飲みに行ったところ、Aさんから「(胸ぐらをつかまれた男性が)『勉強会なんかやってもミスは減らないのに、出るように勧められるので面倒くさい』と愚痴をこぼしていた」と聞かされたという。

 そのことに胸ぐらをつかんだ男性はカチンときていたのか、例の30代の男性が大きなミスをした際に、つい激高して乱暴なふるまいをしたというわけだ。ちなみに、上司が30代の男性にそれとなく尋ねたところ、そんな愚痴をこぼした覚えはないと答えたらしい。

 もちろん、誰かが嘘をついているのかもしれないし、自分に都合のいいように事実を少々歪曲しているのかもしれない。録音していたわけではないので、結局は「言った」「言わない」の水掛け論で終わってもおかしくない。

 だが、以前Aさんと同じ部署にいたことがある社員からも話を聞いたところ、Aさんの「○○さんが~と言っていた」という発言のせいでもめたことも、喧嘩になりかけたことも何度もあったことがわかった。

 Aさんは一見温厚そうで、いつもにこにこと笑顔なので、つい気を許していろいろ話してしまうのだが、後で自分が言った覚えのないことを「○○さんが~と言っていた」と吹聴されていたと知り、驚いたという社員が何人もいたのだ。

 たとえば、女性が二人しかいない部署で、誰もやりたがらない雑用を20代の若い女性社員にやらせればいいと30代の女性社員が言っていたと、Aさんが発言したことがあるそうだ。その話をまた聞きした20代の女性が30代の女性に「どうしてそんなこと言うんですか」と詰め寄ったという。それに対して、30代の女性は「そんなこと言ってないわ」と怒り出し、大喧嘩になったらしい。

 この場合、Aさんには雑用を20代の女性に押しつけたい思惑があったが、それを自分自身の意向として伝えると、恨まれそうだったので、30代の女性が言ったことにして責任転嫁した可能性が高い。

 あくまでも自分は"いい人"のふりをするために、30代の女性を憎まれ役に仕立て上げようとしたわけで、似たようなことは誰でも多かれ少なかれやっているかもしれない。たとえば、おもちゃを買ってほしいと駄々をこねる子どもに母親が「お父さんの許しがないと買えない。お父さんは厳しいから、たぶんダメだと言うと思うよ」と言って、あきらめさせようとするのは、よく使う手だろう。

 あるいは、部下が嫌がりそうな仕事を押しつける際に、上司が「これは上の命令だから仕方がない。会社の方針として、どうしても君にやってほしいということだ」と言って説得することもあるかもしれない。上司が部下から恨まれたくなくて、自分より"偉い人"や会社を憎まれ役に仕立て上げるわけである。

 一方、「勉強会なんかやってもミスは減らないのに……」と30代の男性が愚痴をこぼしていたという嘘の話をでっち上げ、50代の同僚に伝えたことに、雑用を押しつけたいといった類いの思惑があったとは考えにくい。それでは、あえて不和の種をまくようなことをAさんがしたのは一体なぜだろうか。

 つづく「「働かないおじさんなのに、給料が高いのはおかしい」と言われた50代平社員の「仕返し」」では、昇進とはまったく無縁でずっと平社員のままだっというAさんが「不和の種をまく人」になるまでの背景や構造を深掘りする。