民族衣装から屋台料理まで インドで急速に普及する電子決済システム

AI要約

インドのデジタル決済が急速に普及し、日常生活に革命をもたらしている。

UPIを利用したデジタル決済の導入や現金廃止政策により、電子決済の利用が拡大している。

デジタル決済はインドの経済発展を促進し、将来的には取引数や金額がさらに増加すると予想されている。

民族衣装から屋台料理まで インドで急速に普及する電子決済システム

香港/ニューデリー(CNN) インドの旧市街地区オールドデリーのチャンドニーチョーク市場近くに、ブリジ・キショア・アガルワルさん(79)が経営する民族衣装サリーの店がある。かつては、この店を訪れた家族連れが、鮮やかな刺繍(ししゅう)が施された大きな衣服の束を現金で支払い、店を出ていく姿は日常の光景だった。

アガルワルさんは、何者かが店に侵入して銀行に預金する前の現金を盗むのではないかという不安に駆られ、夜は眠れなかった。だが最近では、ほとんどの顧客が電子決済を利用して支払いを済ませるため、安心して眠れるようになったという。

約65年にわたりこの店で働くアガルワルさんは「この国が変わっていくのを目の当たりにしてきた。現金決済は稀(まれ)だ」と語る。

ユーザーがQRコードをスキャンするだけで即時送金が可能な「統合決済インターフェース (UPI)」などのシステムを通じて行われるデジタル決済は、世界で最も人口の多いインドで広く普及し、日常生活を一変させた。

デリーでは、茶売りがモバイルアプリで集金し、熱々のパニールパラタ(チーズ入りの薄焼きパン)を購入しようと車を止めたトゥクトゥクの運転手が携帯電話で支払いを済ませる。

電子決済が起こす革命は、経済大国を目指すインドにおいても重要な役割を果たすだろう。世界第5位の経済大国であるインドでは、モディ首相が2047年までにインドを「先進国」入りさせることを目指している。

米コーネル大学の経済学教授、エスワル・プラサド氏はCNNに対し、「デジタル決済は摩擦をなくし、効率を高め、コストを削減することで、インドの成長を促進する可能性が高い」と述べたうえで、「UPIと経済の広範な電子化は、成長の包括性も高め得る」と話した。

インドは約15年前からデジタル化に向けた取り組みを開始したが、電子決済はなかなか普及しなかった。16年時点で、インドにおける取引の96%は依然として紙幣で行われていた。

だが同年に起きた二つの出来事により状況は一変した。まず、インド準備銀行(中央銀行)と銀行協会が主導する非営利団体のインド決済公社(NPCI) が決済インフラUPIを導入した。

UPIを利用すれば、ユーザーは携帯電話を仮想デビットカードとして使用でき、銀行情報を入力したり、取引手数料を支払ったりすることなく、約600の加盟銀行やフィンテック企業から即時に送金できる。

さらに、インド政府は同年、汚職撲滅を目的として、流通通貨全体の86%を占めていた2種類の高額紙幣を突如として廃止した。これにより電子決済の利用が急増することになった。

デリーのサロジニ・ナガー市場でタオル店を営むラメシュ・クマールさん(52)は「他に選択肢がなかった」として、16年にデジタル決済の受け入れを始めた。

また新型コロナウイルスにより、人々がウイルスから身を守ろうとするなか、デジタル決済の普及はさらに加速した。

インドでは現在、野菜売りから医者まであらゆる人が支払いにUPIを利用している。政府によれば、インドのデジタル決済率は世界トップで、23年にはUPIの取引件数が1000億件を超えた。

一方で電子決済に乗り気でない人たちもいる。オールドデリー在住の人力車運転手、アジーズさん(34)はCNNに対し、お金を失うのが怖くて電子決済は使えないと語った。

「私は教育を受けていない。貧しく、学校に行ったこともなく、読み書きもできない。間違えたらどうなるのか?」

それでも電子決済は増加傾向が続き、公式な経済に流入する資金の数と金額をさらに押し上げると予想されている。UPIは30年までに1日当たり20億件の決済取引が行われることを目指している。

「私、そして古くからある私の店がこのように前進して変化できるのなら、ほかのすべての買い手や客もできるはずだ」とサリー販売店を営むアガルワルさんは言う。