ブランドバッグで隠れていた「スモーキングガン」、尹大統領夫人と官邸工事【コラム】

AI要約

現在の大統領官邸は元々外交部長官公館だった建物を増築して改築したもので、無資格の業者が施工を行い、違法な行為が疑われている。

増築工事を請け負った「株式会社21グラム」は増築工事のための資格を持っておらず、随意契約により工事が行われた。増築工事が終わった後にセキュリティ工事が追加されたが、不正な手抜き工事の疑いも浮上している。

監査院の監査は進行が遅れ、大統領室の非協力により中止も要求された。キム・ゴンヒ女史とのつながりを含む疑惑が解明されず、具体的な責任者も特定されていない。

ブランドバッグで隠れていた「スモーキングガン」、尹大統領夫人と官邸工事【コラム】

 今の大統領官邸は、元は外交部長官公館だった建物を改築したものだ。大統領職引継ぎ委員会の際、(尹錫悦大統領が)「少し手を加えて使おうと思う」と述べたため、若干の改修・修繕をしたものと知られていた。

 しかし、実際はそうではなかった。増築工事が行われた。官邸の登記簿謄本にも「増築」した事実が記載されている。主な生活空間である2階の面積が拡張された。もちろん増築そのものは問題にならない。だが、無資格の業者に施工を任せ、そのような行為自体が違法であるならば話は完全に変わる。

 官邸の増築工事は行政安全部と契約した「株式会社21グラム」が担当した。「光速」の随意契約で工事を請け、大統領夫人のキム・ゴンヒ女史とのコネクション疑惑を買ったその業者だ。この会社は増築工事ができる「資格」を持っていない。官邸のように一定の面積以上で費用が多くかかる増築工事は「総合建設業」に登録された業者だけが可能だ。建設産業基本法などに「施工者の制限」が厳格に規定されている。これに違反すれば、懲役刑や罰金刑を受けることになる。21グラムは総合建築業者ではない。国土交通部に「室内建築工事専門」業者として登録されている。増築工事を受け持ってはならず、任せてもならない。にもかかわらず、「一般競争」(国家契約法第7条)ではなく随意契約で官邸工事が任せられた。どうしてこのようなことが起こり得たのか。

 18日、行政安全部に経緯の説明を要請した。傘下の「政府庁舎管理本部」が官邸の工事を発注・契約し監督した主務管理庁だったからだ。しかし、20日まで待っても返答は来なかった。案の定だ。 本部の内外では、官邸工事の間は自分たちが排除されていたという話が以前から出回っていた。それなら、この工事を実質的に主管したのは誰なのか。

 官邸増築は、登記簿謄本に書かれた2022年9月5日以前に完了した。使用許可が出たという意味だ。それより前の8月に、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は9月1日から官邸から出勤するという報道が大統領室から発せられた。ところが、突然入居が遅れた。大統領夫妻は2カ月後の11月7日になってようやく官邸に入った。大統領室はセキュリティ施設の強化のためだと言った。増築を終えた後、セキュリティ工事を追加したという趣旨だ。建設業界に尋ねると「工事を別々にするのはナンセンス」だという。そのため、手抜き工事説が出ている。2カ月間、セキュリティではなく「補完」工事をするために大型の建設会社がこっそり動員されたという話まで出回っている。官邸の工事をめぐって何が起きたのか。

 疑問を解明すべき監査院の監査は、いまだに出発点のあたりをうろうろしている。2022年12月、監査院は市民団体「参与連帯」の国民監査請求を一部認容し、監査に着手した。ところが翌年3月、監査業務を総括していたA課長が抗議の意味を含めた辞表を出した。資料提出拒否など大統領室の露骨な非協力により監査期間の延長が避けられなくなった状況で、「実力者」のユ・ビョンホ事務総長(現監査委員)がむしろ監査の中止を要求し、辞職届を叩きつけたと言われている。

 ユ事務総長はその後、最側近の中でもエースといわれるB局長を監査に投入した。ところが1年半が経った先月、監査期間が再び延長された。「監査院は大統領の国政運営を支援する機関」という所信を持ったチェ・ジェヘ監査院長でさえも、「このような状態で監査を終えることはできない」という監査委員の多数の指摘に同意したという。これまでの監査がでたらめだったということだ。

 監査院内外のいろいろな言葉を総合すると、官邸の監査はキム・ゴンヒ女史とのつながりが確認される所で阻まれ、にっちもさっちもいかなくなっている。最初の21グラムとの随意契約から、すべての疑惑がある一人を指しているということだ。「ここで答弁をすればその人がターゲットになり、そうなるとどの業者が入ったということなど、すべてが知られることになる」として踏ん張っていたキム・デギ前大統領秘書室長の答弁(2022年8月23日・国会運営委員会)は、多くの真実を含んでいる。

 「キム女史が(官邸の)壁紙や水道の蛇口を選ぶのは問題にはならない。しかし、もし国家予算が投入された官邸工事の業者の選定、随意契約などに関与したとすれば、国政壟断行為になりうる。そのような法的権限がないためだ。かつてチェ・スンシル氏も権限がないのに国政に関与し、処罰を受けたではないか」(尹大統領の検察時代の先輩・特捜通)。ドイツモーターズ株価操作疑惑は尹大統領の大統領当選前のことだ。「ブランドバッグ」受け取りに斡旋(あっせん)収財罪を適用するのは難関が多い。その反面、官邸工事の問題はシンプルだ。

 スモーキングガン(動かぬ証拠)を一時的に隠すことはできる。しかし、永久に隠すことはできない。8年前に「タブレットPC」が教えてくれた教訓だ。

カン・ヒチョル|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)