【栗東便り】多くの騎手を悩ませる“サイン強要”の実態

AI要約

競馬場へ移動中の騎手に対する"サイン強要"が問題化しており、JRAが注意喚起のお願いを出した。

移動中の騎手が転売目的と思われる人々に囲まれ、サインを求められる事態が深刻化している。

ファンへのサービス意欲はあるものの、問題行動が続くとサインをもらえる機会が減少し、競馬ファンと騎手の距離感が悪化する可能性がある。

【栗東便り】多くの騎手を悩ませる“サイン強要”の実態

 想像していたよりも実態はひどかった。

 先週24日にJRAは公式サイトに「競馬場へ移動中の騎手に関するお願い」を掲載した。

 「JRAでは公正確保の観点から、騎手が騎乗予定の競馬場に移動する際は一般の方と接しないよう指導しております。そのため、移動中の騎手に対し写真撮影やサイン等の申し出がございましてもお断りさせていただくこととなりますのでご承知おきください」

 この「お願い」が出された背景には、競馬場へ移動する騎手に対する“サイン強要”のエスカレートがある。川田騎手が27日に自身のインスタグラムで説明しているので、そちらもぜひご覧いただきたい。

 今週の栗東トレセンで、その実情を複数の騎手に取材した。聞けば聞くほど、恐怖や危険を感じた例が続々と出てくる。耳にした自分まで嫌な気持ちになるぐらいだった。

 駅や空港などで、転売目的と思われる心ない人間に囲まれ、あるいは追い回され、執拗(しつよう)にサインを求められる。「カツアゲみたいに…」と表現する騎手もいた。警察に助けを求めたのも1人や2人ではない。その悪質な手口は(万が一にも模倣されてはいけないので詳細は伏せるが)組織的のようにも思えた。

 やはり人気のある騎手ほど標的にされてしまう。深刻だ。翌日にレースを控えた身で、移動において神経を使わなければならない胸中は察するに余りある。

 一方で、決して(移動中以外で)ファンサービスをしたくないわけではないはずだ。ある騎手は「残念な状況ですよね」とこぼした。

 大多数の競馬ファンの方々も気の毒だ。こうした状況が続けば、サインをもらえる機会が減ってしまう懸念がある。

 現状を打開するには、もちろん、心ない行動がなくなるのが第一だ。身に覚えのない大半のファンの方々にはどうしようもないかもしれないが、転売目的で出品されたグッズに手を出さないことは抑止力になるだろう。

 純粋に競馬を愛するファンとジョッキーとの距離感が開いてしまう事態だけは、なんとしても避けたい。【太田尚樹】