フランス代表はむしろ優勝の可能性が高まった。2試合1得点も、楽観視できるわけ【ユーロ2024分析コラム】

AI要約

ユーロ2024グループD第2節、オランダ代表対フランス代表は0-0のスコアレスドローに終わった。

フランス代表は攻撃の特長を生かして相手に合わせた攻撃パターンを展開し、優勝に向けて進化を遂げている。

オランダ代表との試合でフランス代表は崩れない守備と多彩な攻撃手法を披露し、優勝候補としての資質を見せつけた。

フランス代表はむしろ優勝の可能性が高まった。2試合1得点も、楽観視できるわけ【ユーロ2024分析コラム】

 ユーロ2024グループD第2節、オランダ代表対フランス代表が現地時間21日に行われ、0-0のスコアレスドローに終わった。開幕前から優勝候補として期待されていたフランス代表だが、2試合を消化した時点で得点はわずか1ゴール、それもオウンゴールと未だにスコアラーがいない。この情報だけ聞くと「優勝に向けて暗雲がかかっている」と思われてもおかしくないが、彼らは依然として優勝候補だろう。(文:安洋一郎)

●フランス代表とオランダ代表の好カードはスコアレスドローに

 開幕前から優勝候補筆頭として期待されているフランス代表は、オランダ代表との注目の一戦を0-0の引き分けで終えた。今大会が開幕してから21試合目にして初のスコアレスドローとなっている。

 フランス代表はオーストリア代表との初戦を含めた開幕2試合で1ゴールしか奪えていない。それもオウンゴールのみであり、2試合を消化したチームの中では唯一スコアラーがいない。しかもオーストリア代表戦でエースのキリアン・エンバペが鼻骨を骨折してしまい、この試合では無理して起用することがなかった。

 これだけ不安要素が多いと、優勝に向けて疑念を抱くサポーターもいるかもしれないが、ハッキリ言って何も問題ないだろう。筆者はむしろこの2試合で優勝の可能性が高まったと感じている。

 例えば同じく優勝候補と期待されながら2試合で2ゴールと得点力不足に陥っているイングランド代表とはわけが違う。

 なぜ得点力不足でもフランス代表が優勝候補と言い切れるのか。その根拠について説明していこう。

●フランス代表の攻撃の特長

 「ゴール前での効率を欠いたが、今夜のチームのパフォーマンスには満足している」。

 フランス代表のディディエ・デシャン監督がオランダ代表との試合後の会見で語ったこの言葉にすべてが詰まっている。

 フランス代表はオーストリア代表戦、オランダ代表戦といずれの試合でも自分たちが意図した形でチャンスを作れている。それも自分たちの強みを生かした「ユニットでの崩し」と「相手の守備の出方を見た上での崩し」の2パターンがあり、相手からすると対策がしづらい形で攻撃を仕掛けることができている。

 それでもオウンゴールのみの1ゴールに留まっているのは、シンプルにフィニッシュの部分に精彩を欠いているからで、初戦はキリアン・エンバペ、2戦目はアントワーヌ・グリーズマンがビッグチャンスを外した。ミスしたうちの半分でも決まっていれば印象は大きく変わるだろう。

 さて、話をオランダ代表との試合にフォーカスすると、フランス代表の攻撃陣は相手の絶対的なディフェンスリーダーであるフィルジル・ファン・ダイクに対してどのように攻撃的なアプローチを仕掛けるのかを考えながら攻めていた。

 オランダ代表の守備陣はこのリバプール所属のCBにすべてが懸かっていると言ってよいほど、彼の個人能力に依存をしており、「ファン・ダイクが崩れる=チームの崩壊」を意味する。この試合でも彼の相方であるステファン・デ・フライはかなり苦戦。右SBのデンゼル・ドゥンフリースも攻撃寄りの選手と、かなり右サイドの守備が不安定だった。

 こうした相手の特長に合わせて攻撃の形を工夫できるのがフランス代表の強みであり、今回はオランダ代表の最大の強みでありながら、いないと成立しないファン・ダイクをゴール前から遠ざけることに重きを置いていた。

●オランダ代表との試合でみせた相手に合わせた攻撃パターン

 その代表的なシーンが2つある。1つ目が16分に訪れたこの試合最大の決定機だ。

 アドリアン・ラビオがマルクス・テュラムとのパス交換でボックス内に進入し、最後アントワーヌ・グリーズマンへとラストパスを出したこのシーンで、フランス代表は見事な連係でファン・ダイクをゴール前から遠ざけた。

 それを可能にしたのがテュラムのポストプレーである。ボックス外にてファン・ダイクを背負った状況でラビオからパスを受けたインテル所属のFWは、そのままボックス内に進入したラビオへとリターンパスを通している。

 いかにファン・ダイクをボックス外に釣りだすかが勝負の分かれ目であり、潰されてボールを奪われるリスクを背負ったとしてもそのリターンは大きい。

 65分に訪れた決定機も同様だ。グリーズマンが最前線から下りてボールを受けようとすることでファン・ダイクをボックス外に釣りだすと、彼が空けたスペースに右サイドから走り込んできたテュラムが進入。最後はカンテのラストパスを受けたグリーズマンがゴールを狙ったが、15分のシーン同様にボールをミートすることができず、相手GKに阻まれた。

 先述した通り、フランス代表は「ユニットでの崩し」にかなり重きを置いているチームで、15分のシーンも65分のシーンも3人以上の選手が攻撃に関わりながら流れるようなポジションチェンジで決定機を演出している。それもカンテやラビオといった3列目の選手たちの攻撃参加が目立っており、相手からすると非常にマークがしづらい。

 このユニットでの崩しに加えて、75分にオリビエ・ジルーを投入してからは別の形でゴールに迫る。高さと周りの選手を活かすことに長けている彼の特長を活用した方法で効果的なチャンスを作り出していた。

 優勝を目指す強豪国の中で途中出場から攻撃の形を変えて、明確に流れを変える切り札を持っているのは、ニクラス・フュルクルクがいるドイツ代表にペドロ・ネトがいるポルトガル代表、そしてジルーがいるフランス代表の3チームぐらいだろう。

 フランス代表は攻撃の手札が多いだけでなく、守備も強固であり、オランダ代表との試合で明確に決定機を作られたのはオフサイドでゴールを取り消されたシーンぐらい。カウンターの芽をカンテや両CBがことごとく封じており、GKのマイク・メニャンも安定している。

 これだけベンチワークも含めて、攻守に充実しているナショナルチームはそういない。今大会も優勝争いに絡んでくるのは間違いないだろう。

(文:安洋一郎)