「天性の勝負師はいない。勝負師はつくられるもんや」勝負強さは“上手” “下手” とは別物?【“甦る伝説”杉原輝雄の箴言集⑩】

AI要約

ゴルフプレーヤーの杉原輝雄の勝負哲学と試合での肉声について紹介。

ゴルフは相手、コース、自分との戦いであり、自分が最も難敵であることについて語る。

自己申告に関する倫理観や、他者の目に触れない状況での正直さの重要性について述べる。

「天性の勝負師はいない。勝負師はつくられるもんや」勝負強さは“上手” “下手” とは別物?【“甦る伝説”杉原輝雄の箴言集⑩】

1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。

ーー「ゴルフというのは3つの要素、「相手」「コース」「自分」と戦う競技。中でも「自分」がいちばん難敵や」

ゴルフというのは3つの要素と戦う競技、すなわち「相手」「コース」「自分」との戦いです。この中でもいちばんの難敵は自分です。

自分との戦いに中にも、ラウンドで自己の精神力をコントロールせないかん問題と、もうひとつあるんです。それは自分のプレー、スコアを自己申告せないかんということです。これが最大の難関やないやろか。

いわゆる“ズル”です。OBのボールを動かしてセーフにするというのは悪質すぎて論外やけど、アドレスでソールしたらラフの中でボールが動いてしまった、誰も見てへんから黙っとこ、それこそ「悪魔のささやき」との戦いのことです。球聖と呼ばれたボービー・ジョーンズさんは誰も気づかなかったけれど、ラフの中でボールが動いたと申告。その1打で全英オープンとれなかったわけやけど、それが美談になりまして、ジョーンズさんが言ったことは「スコアをごまかさなかった私を誉めてくれるのは、銀行強盗をしなかった私を誉めてくれるようなものである」と。ボクらはこれを範としなければなりませんよ。しかし、これがいちばん苦しい戦いかもしれません。

でもこれが実は人間の値打ちを決めることや思ってます。ゴルフだけやありません。どんな仕事でも、社会的マナーの面からもいえると思います。人が見とらんから、手を抜く……、誰も見とらんから車からゴミを捨てる……、公衆便所を汚く使う……、いろいろあります。責任の所在を明らかにする、ということも大事やけど、誰も見てないところで起きたミスをどう処理するか、ここで人間の値打ちが決まると思ってたほうがええと思いますよ。