【震災・原発事故13年】福島県整備の浜通り海岸防災林 のり面の維持管理不十分 住民生活の影響懸念

AI要約

福島県の海岸防災林の管理問題について、のり面部分の草刈りや監視が行き届いておらず、地元住民から維持管理費の見通しの甘さが指摘されている。

県内の海岸防災林は完成が進められており、設置されている計画地域の面積と構造について詳細が記載されている。

県はのり面の維持管理に新たな取り組みを行う予定であり、売却益を得るためにJ−クレジット制度を活用することが計画されている。

【震災・原発事故13年】福島県整備の浜通り海岸防災林 のり面の維持管理不十分 住民生活の影響懸念

 東日本大震災の津波被害を受け、福島県が浜通り沿岸部に整備してきた海岸防災林の管理の在り方が一部で問題化している。盛り土をして造成した防災林のうち、のり面部分の除草や監視が行き届いていないためだ。場所によっては雑草の繁茂などで隣接する道路の視界不良や景観悪化が起きており、地元住民からは維持管理費に国の補助を当て込んだ県の「見通しの甘さ」を指摘する声も。放置すれば、住民生活への悪影響が懸念される。

 県内の海岸防災林は津波や高潮などの「潮害」による後背地の被害軽減を目的に震災以降、整備が進められてきた。太平洋に面する7市町に南北の総延長約40キロ、約620ヘクタールが造成される計画だ。今年3月末までに99%が完成している。

 市町別の面積は【表】の通り。南相馬市が295ヘクタールで最も広く、相馬市の169ヘクタールが続く。浪江町では東京電力福島第1原発事故に伴う仮設焼却施設が計画地にあり、撤去などのため整備が遅れていたが、来年度末で全事業が完了する見通し。

 県内の一般的な海岸防災林の構造は【イメージ】の通り。高さ約3メートルの盛り土上にクロマツなどを植えた森林部分は下草刈り・間伐など維持管理費が林野庁の補助対象となる。一方、幅約9メートルののり面は「森林部分ではない」ため、補助対象から外れている。

 防災林が震災前の約260ヘクタールの2倍超に達したのに伴い、のり面の面積も拡大した。陸側ののり面は道路や農地に接する場所が多く、茂った草が通行車両の視界を遮ったり、個人が捨てたごみが放置されるなどの課題が生じている。県は外部委託などを行い適切に管理するには年間数千万円が必要と見込み、国に財政支援を求めたが、実現しなかった。

 一部の地域では住民から県や地元市町に苦情が寄せられている。南相馬市では2018(平成30)年に全国植樹祭が開催された。多くの市民が植樹などに携わっただけに景観保全への意識が高い。

 市民有志でつくる南相馬市鎮魂復興市民植樹祭応援隊はのり面の荒廃を見かねてボランティアで除草をしてきたが、隊員の高齢化などで活動ペースは落ちている。事務局を務める岩橋孝さん(67)は「防災林を美しく保つにはのり面も手入れが必要」とした上で、維持管理を巡る現状を「県の見通しが甘かったのではないか」と指摘する。

 相馬市にも、「のり面から道路にはみ出た雑草が見通しを悪くしている」などと対応を求める苦情や問い合わせが、市民から寄せられている。

 県はのり面の維持管理に充てようと、防災林による二酸化炭素(CO2)吸収量をクレジット(排出権)として売却する「J―クレジット」制度に来年度、着手する。今年度中に登録を進め、一部をモデル地域として取引を始める。ただ、クロマツなどの樹木が十分に生長するまで5~10年かかる防災林も多く、当面の売却益は年間数十万円にとどまる。財源確保のめどが立っていないのが実情だ。県森林保全課は「課題の解決に向け、あらゆる方策を検討する」としている。