応挙手本?に描いたトラ甦れ…徳島の寺のふすま絵修復へ

AI要約

江戸時代後期に活躍した徳島県小松島市出身の画家・松浦春挙が描いたふすま絵「竹虎図襖」の修復が進行中。絵は竹林の中で水を飲むトラ5頭を描いた作品で、応挙の作品を手本にしている可能性がある。

長らく保管されていた作品が老朽化し、修復が必要と判断された。工房では10人の職人が細かく作業し、裏打ちや補強も行う。また、レプリカも制作される予定。

徳島城博物館で展示される予定の修復後の作品は、次世代に残すためしっかりと直される。工房は春挙の作品としては初めての大作に取り組んでいる。

 江戸時代後期に活躍した徳島県小松島市出身の画家・松浦春挙(1771~1847年)が描いたふすま絵「竹虎図襖」の修復が6月に始まる。絵を所蔵する地蔵院東海寺(徳島市北山町)が、美術品の修復を専門とする愛媛県新居浜市の工房に依頼。師弟関係だったとされる円山派の祖・円山応挙のふすま絵との類似性も指摘されており、修復後は徳島市立徳島城博物館で展示される予定という。(山根彩花)

 作品はふすま4面で、それぞれ高さ約1・8メートル、幅約1・9メートル。春挙が県外で絵の修業をして徳島に戻った後の1806年に制作した。背景に細かい金箔をふりかけ、竹林の中で水を飲んだり、ほえたりするトラ5頭を毛並みまで岩絵の具などで細かく描いている。

 寺に納められた経緯は不明だが、作品は長らく同寺本堂のふすまとして使用。1932年からは年1回の法会で取り付けられる以外は箱の中で保管されていた。経年で損傷が激しくなり、40年ほど前からは全く取り出されなくなったという。

 老朽化した本堂の改修などを進めていた鷲野良文住職(55)はふすま絵も修復しようと考え、市立徳島城博物館に絵の調査を依頼。2018年に学芸員3人が作品を確認したところ、水を飲むトラの姿が、金刀比羅宮(香川県琴平町)所蔵の応挙が描いたふすま絵「遊虎図」(重要文化財)のトラとほぼ同じであることが判明した。

 調査にあたった小川裕久学芸員(54)によると、春挙は大坂で森狙仙に師事。その後については、江戸時代の画家の評伝の一つに「応挙を師とし」との記載があるが、応挙が有力門弟と合作した作品に春挙は携わっていない。応挙を直接参考にしたことが考えられる作品はなかったという。

 小川学芸員は「春挙が金刀比羅宮を訪れ、応挙の作品を手本にしたのでは」と推測し、「応挙を尊敬して最先端の画法を学び、徳島に持ち帰ったことがうかがえる貴重な資料」と結論づけた。

 鷲野住職は新居浜市の工房「泰峰堂」に、ふすま絵の修復を依頼し、来春の完成を目指す。工房では約10人の職人が作業を担う。紙がはがれて絵が欠けた部分には、日本画の顔料で色を付けた紙を裏からあてて目立たないようにする。ふすまの木枠や紙を補強する「裏打ち」などは新調。ふすまの裏に別の画家によって描かれた水墨画も同様に修復する。

 さらにレプリカも制作。本物は徳島城博物館に寄託され、レプリカは東海寺で使用される予定という。工房の西田泰典社長(44)は「春挙の作品を手がけたことはあったが、これほどの大作は初めて。次世代に引き継げるようしっかり直したい」と意気込み、鷲野住職は「レプリカを使い、江戸時代の寺の姿に戻したい」と話している。